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結花は気が付いた。 6年生になって仲良しの美月と芽衣子と同じクラスになって、分かったことがある。それは美月のことだ。 美月はよく休み時間に席を外していることが多いのだ。 「ノート見せて……」と結花が頼みに行くと、美月は休み時間が始まったばかりなのにもう席にいなかったりした。何度かそんなことがあったので、結花は美月が気になっていた。 いったいどこへ美月は行っているのだろう……わたしたちには言えないことなんだろうか。 結花は少し不安になった。 ーーまさかね。秘密なことなんて、ないよね。 結花は首を横に振って、邪念を追い払った。 休み時間が始まると、美月はすぐに席を立った。 結花は美月がどこに行くのかなと視線で追う。美月は休み時間にトイレ以外にもどこか行っている感じがした。 結花はそっと跡をつけた。 どこへ美月は行くつもりなんだろう…… 結花は美月を疑って跡をつけていることに罪悪感を感じた。 美月はキョロキョロしながら渡り廊下の方へ行く。あっちには職員室とか保健室しかない。 美月は歩調をゆっくりにしながら、渡り廊下を歩いていた。 美月は渡り廊下の窓から何か見ているのだろうか。こっそりと、ひっそりと。もしかして、美月には好きな人がいるのかもしれない。 結花は何となく勘が働いた。 別にからかったりしないし、言ってくれたら協力だってするんだけどな。 結花はちょっぴりさみしく思う。 でも、美月のクールな性格なら。そういう感情は秘密にしておきたいタイプかもしれない。 結花は美月の気持ちがわかったような気がした。 美月は休み時間に大野先生がいるときは自分の席にいる。先生がいないときは廊下の方へ行き、姿が見えなくなった。 「ねえねえ、美月」 結花は美月の席に近づいた。 大野先生は教室の机でノートの丸付けをしていた。美月はにこにこしながら、じっと先生の方を見ていた。 「うん?」 美月は結花の問いかけに返事をした。 「最近、どっか休み時間ひとりでいっているようだけど……」 結花が話し始めると美月の眉がぴくっと動いた。 美月、怒る?この話、嫌がるかな…… 結花は危惧していた。しかし意外にも美月は黙ったままだった。 怒らないけど、無視ってこと? それともびっくりして何も言えないってこと? ああ、こんなことなら言わないほうがよかったかも……。 結花は焦った。 大野先生が席を立ち、定規やポスターをもって廊下へ向かって歩き出した。 「ごめん!」 美月は結花に突然いうと、先生のところに小走りで近づいていった。 「先生、手伝います」 「ああ。美月、ありがとう」 先生は美月の頭をポンポンとする。 美月は幸せそうに笑った。 結花はじっと美月を見た。 美月は手伝いを終えて、帰ってきた。 「ごめんごめん。なんだっけ」 結花に聞く。 「ううん。えっとね。忘れちゃった」 結花は聞くに聞けずごまかした。 まさか……美月、先生のこと? まさかね。美月に限って好きな人が先生ってことはないかな。 結花は美月をじっと見る。 「なによ~、じっとみて。なんかある? なんかくっついてる? 」 美月は結花にぴたっとくっついた。 「なんでもない!」 結花は明るく言う。 「なになに?おもしろいこと?」 芽衣子が寄ってきた。 「ねえねえ、いいじゃん、わたしにも教えてよ~」 「何もないって」 美月は苦笑いする。 「芽衣子、何もないよ、秘密なんて。美月、休み時間どっかいっちゃったって話なだけだよ」 結花は簡単に事情を芽衣子に話す。 「そうなの? ねえ、美月、どこ行ってたの?」 芽衣子はズバッと聞く。 結花は美月の機嫌が悪くならないか心配になったが、美月は笑顔だ。 「先生の手伝いしてきた」 「なんだ~、つまんないの」 芽衣子は結花に言う。 結花は苦笑いした。 給食の準備の時間になった。 結花は読みかけの本を机の中から取り出した。 そういえば、この本、美月も読みたいって言っていたっけ。 結花は思い出し、美月の方を振り向いた。 あれ? 美月は…… しばらく前に手を洗いに行っただけのはずの美月がまだ席についていなかった。 結花はまた心配になった。 もしかして美月、いじめられてるんじゃないのかな。誰にも言えずに苦しんでるとか……それとも体調が悪い? どこかで倒れている? 結花はどんどん悪い方に考えた。 「ねえ、芽衣子。わたし、ちょっと美月がいないから探してくるね」 「あ、うん。まだ先生いないし……大丈夫だよ? 美月、その辺にいるんじゃない?」 「うん……でも、なんか心配で……」 結花はそっと教室を抜け出した。 結花の教室では給食当番が配膳の支度をしていた。2組も3組も4組も同様に配膳中らしい。各教室内はがやがやとにぎやかだ。 結花は廊下に出ると、れなちゃんと井山君が廊下で親し気に話しているのを見かけた。あいかわらず恋愛中ってわかる空気感だ。 結花はちらっとみると、れなちゃんが手を振ってくれた。 結花はれなちゃんと井山君を見ていたことをごまかそうとしたが、れなちゃんに気が付かれ、慌てて手を振り返した。 うう、二人の邪魔してしまったんじゃないか。ごめんね……。 結花はれなちゃんに心の中で謝った。 6年2組の廊下のドアからは、祐一がちらっと見えた。 祐一はほかの男子とおしゃべりしていた。そこに女子がだんだん近づいていった。 あれはえりかちゃんだと思う。 結花は胸がぐっと押し付けられるような気がした。 噂によるとえりかちゃんは祐一のことが好きらしい。 結花は噂を思い出し、心がざわついた。 祐一は笑った。えりかちゃんは「ヤダもう」とか言っているように見える。女子っぽいしぐさで女の子全開って感じだ。 ああいうのが好きっていう男子もいるよね。きっと……。 結花は胸のあたりがもやもやして、イラッとした。 噂の通り、えりかちゃんは祐一のことが好きなのかもなしれない。てことは、ライバルってこと? ああ、もう。やだぁ。 結花は頭を横に振った。 この胸が締め付けられるのは、もやもやするこは、ざわめきが止まらないのは、きっと祐一のせいだ。 好き……恋……やぱり、そうなの……かな。 結花はギュッと目を閉じて、祐一を見ないようにして、祐一のクラスを通り過ぎた。 それよりもいまは美月だ。 どこに行っているんだろう。何か悩んでるとか? 結花は職員室へ向かった。もし美月が先生のことが好きで……大野先生を見に行っているなら。大野先生を見に行っているとすれば……美月は職員室の前か、職員室付近の廊下にいるにちがいない。 結花は階段を降り始めた。 --美月、本当に大野先生が好きなのかな。本気なのかな。それってどうなんだろう。大野先生って大人だよ。わたしたち、小学生だよ。12歳。どうなの……どうするの。どうしたらいいの。 結花は美月が心配になった。 結花は学校中探しまわった。結花が保健室まえまでいくと、美月は保健室のドアを閉めるところだった。 「美月、いた……よかった。」 結花は美月に駆け寄った。 「結花、なんかあったの? 走ってきたの? わたしのこと、探していたの?」 美月は驚いている。 「ううん、なんでもない。何もなかったよ」 結花は慌てふためいた。 「わたしのこと探してたのでしょ? どうして? 」 「ううん。なんでもないってば……ただ、いないからさ……」 結花はもぞもぞと答える。 美月は結花の腕をとる。 「心配してくれたの?」 「うん」 美月はぎゅっと腕をくんだ。 「ありがとう。大丈夫だよ。係だからさ、保健室にアンケート置きに行っていたんだよ」 「ああ、そっか」 結花はパッと明るくなる。 「ねえねえ、こっちからかえろ?」 美月は職員室の方へ歩き出す。 「う、うん」 結花は返事をした。 やっぱりどうしても気になる。美月は誰が好きなんだろう。聞きたい。 結花は決心した。 「ねえ、美月?」 「うん?」 美月はにっこりと笑う。 結花は美月の笑顔を見て何も言えなくなる。 いつか、いつか自分から、美月が自分から好きな人のことを教えてくれるかな……。いまはまだ無理でも……。それまで待っていた方がいいんだろうか。 結花は美月のキラキラと輝くような眼を見て、迷う。 美月があまりにもうれしそうなので、結花が視線を前を移すと、先を歩いていく大野先生の姿があった。 結花は美月をちらっと見る。 美月の頬はほんのりと上気していた。 結花は美月にやっぱり大野先生のことを聞きたくなったが、あんなにうれしそうな美月の顔を曇らせたくないとも思った。 聞かないと決めても、またうっかり質問したくなりそうだ。 「さあ、行こう! 給食なくなっちゃうよ」 結花が気持ちを切り替えようと美月に声をかけた。 「まさか! 」 けらけらと美月は笑いながら速足になった。
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