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二階堂は不思議な男だ。
椎名に連れられて、ここレーヴへやってきて、初めて迎えた客が二階堂だった。レーヴの常連客で、椎名も以前、指名を受けたことがあるという。
二階堂様なら心配ない。天宮から太鼓判を押されたものの、ルカの胸は不安で押し潰されそうだった。
はたして、部屋へ入ってきた客は、小太りで髭が濃く、妙な迫力のある男だった。
もみあげのあたりに、うっすらと傷痕があり、さらに威圧感が増している。見た目と違って、二階堂はやさしかった。
「キミ、かわいいねえ」
二階堂はルカを見るなり、手を伸ばして、髪の毛をわしゃわしゃと掻き乱した。当然のことをしているような堂々とした仕草に、ルカは固まっていた。
「新人のかわいい子が入ったから、是非にって勧められてね」
五本の太い指がルカの髪から離れていく。
どうして、そんなことを思ったのかわからない。けれど、二階堂の指を離したくなかった。
「ルカの初めてのお客さんが、こんなオジサンでごめんね」
「いえ、そんなことないです。二階堂様は、とても紳士な方だって聞きました」
「うわァ、そんな話になってるんだ。じゃあ、うんとやさしくしてあげないと、いけないね。プレッシャーだなァ」
「いいえ、そんな風にしてくださらなくて、いいです」
「駄目だよ。まだ若いんだから、もっと自分の体を大切にしなくちゃ」
「でも、」
Ωの体を大切になんて思えない。
「なに言ってるんだい。Ωは素晴らしいよ。みんなを幸せにできるんだから。こんなすごいことはない。それとも、ルカは幸せは感じられない?」
幸せなんて、思ったことはなかった。Ωだと知った日から。
「じゃあ、アタシがルカに教えてあげられるんだ。光栄だねェ。うんと、気持ちよくしてあげるから」
そう言った二階堂から腕をまわされ、強く抱きしめられた。
包みこまれるような圧迫は少し苦しいけれど、嫌ではない。あたたかくて、熱くて、胸の内側がドキドキした。
「キス、していい?」
「……はい」
遠慮がちな口づけを受けながら、ルカは立ちつくしていた。
そう言えば、ファーストキスだったと気づく。ゆきずりの若い男は、キスなんかしてくれなかった。わけがわからないままに、突っこまれていたんだと、いまさらながら意識する。
ルカはその日から、二階堂のくれるすべてに、夢中になった。
微熱を帯びた、ねっとりと甘い口づけ。二階堂のキス一つで、純度の高いアルコールを飲んだように酔いしれてしまう。
ルカの二倍はあるのにピアニストみたいに繊細に動く指先。あの太い指が触れていないところは、体中どこを探しても見当たらない。自分では知らなかった性感を嫌というほど掘り起こされた。
感じる場所を余すところなく舐めまわす、いやらしく動く舌。尖らせた舌先で執拗につつかれ、水を啜る猫のように水音を立ててしゃぶられる。
それに、わけがわからなくなるくらい酩酊させられる、硬い肉杭。
二階堂のアレで隘路を掻き分けられ、深々と打ちこまれる時のことを考えただけで、恥ずかしさで叫び出したくなる。
我を忘れるほどの快楽を、初めて知った。手取り足取り、愛し合う術を二階堂に教えられた体は、すぐに順応した。
二階堂の他にも、発情期の間に数々の客と抱き合った。いろんな客がいたが、ルカはその一人一人を愛おしいと思えた。大半はβだったが、中にはαの客もいた。若いαはきれいな体つきをしていて、申し分のない相手だったが、番になれる気はしなかった。
ルカを一番、甘やかし、溺れさせてくれるのは二階堂だった。
「Ωの体はね、いっぱい愛されるためにあるんだ」
体中が溶けて交じり合うような行為の後、汚れたシーツの上でうしろから抱きかかえられながら二階堂にそう言われると、不意に涙がこぼれた。
「ルカ、どうしたの? ごめん。無理させすぎた? 痛い?」
「ちがっ、じゃなくて、……」
あとからあとから涙があふれて、止まらなくなった。
「ごめんなさい、うまく、言えないけど、でも……」
Ωに生まれて、初めて幸せだと思えた。
ルカは、二階堂がくれたものの大きさを噛みしめていた。
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