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「すごい。片付いてる。若い男の一人暮らしとは思えない」
「当たり前だろ。こんな面積の狭い部屋、散らかした日には足の踏み場ないっつーの」
タオルをつかんで、手早く風呂に湯を張る。ここへたどり着く頃には、二人とも体の芯まですっかり冷えきっていた。
「乾燥機なんて上等なものはないから、洗濯だけしておくぞ。服は、俺とサイズ変わらないだろ。なんか適当に用意しておくから、先に入ってこい」
「で、でも、僕よりシーナ先に入ってよ」
「いいから、先入れ。ちゃんと、あったまってから出ろよ。おまえに風邪なんてひかれた日には、俺がおまえの旦那にボコされるわ」
「そんなことないって」
「つべこべ言わず、入ってこい」
濡れた体を蹴り出すようにバスルームへ放りこむ。ルカはわかってない。自分がどれだけ二階堂から溺愛されているか。
服を見繕って、脱衣所に届けたところで、ずるずると床に座りこんでいた。寒い。腹減った。疲れた。
カップラーメンのストックはあるが、立ち上がることすら億劫で、そのまま横になる。伸ばした足は冷蔵庫にぶつかり、手はベッドに当たる。狭いんだから仕方ない。
「お湯、ありがとう。服も、いろいろ」
湯あがりのルカは壮絶な色っぽさを覗かせていて、シーナは目を見開いた。
体は湯気が出そうなほど温かく、指先はシワシワにふやけている。濡れた髪を無造作に梳くのさえ、妙に艶めかしい。血行がよくなった頬はほんのり薔薇色で、はにかんだ表情がたまらない。
幸せオーラを通り越して、なにか見てはいけないものを見てしまったような、妙の居心地の悪さを覚える。
「そういや、おまえ新婚だったよな……」
「だから、まだ籍入れてないってば」
もじもじと膝をすり合わせる姿がかわいすぎてヤバイ。こいつは、こんな生き物だったか? シーナは手のひらで乱暴に目を擦る。
「籍とか関係ないから。もうね、雰囲気がすでに新婚、ラブラブ、そして新妻の風情」
「なに馬鹿なこと言ってるんだよ。風呂空いたから、シーナも入れって」
「お風呂、ご飯、それともアタシ? みたいな」
「なに言ってんの、もう!」
ルカは言いながら、恥じらいで頬を赤くしている。
なんかエロい。とてつもなくエロい。
思わず、床入りのシーンまで妄想しそうになって、シーナは自分からバスルームに逃げこんだ。招き入れた友人で滾るとか、さすがにどうかしてる。溜まっているわけじゃない。いや、日頃からレーヴに入り浸っているせいで、感覚がおかしくなっているのか。
まずい。
これは、とても、まずい。
昨夜はΩのシーナが、同じΩである鞠村を抱いていたのだ。ルカを抱くことだって、想像できてしまう。鞠村は顔の作りがととのった綺麗な男だが、ルカのほうがかわいい。ていうか、普通にヌける。
「だから、ヤバイってば」
濡れた服を床に脱ぎ捨て、頭から熱いシャワーをかぶった。熱いお湯を感じている時だけ、自分の体にこもるおかしな熱に気づかなくて済む。
ルカは友人だ。いまの生活で、レーヴ以外で知り合ったΩの友人はルカだけだ。
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