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「あんたさ、αなんだろ。αだから、Ωなんかに巻きこまれるのはプライドが許さない?」
「そういうわけじゃ、」
「αのあんたが、ソコ使えないなんてこと、ないだろ?」
シーナに揶揄されていることを理解して、みるみるうちに御薗生の顔が紅潮していく。
そうだ。もっと怒れよ。
激怒して、荒れ狂って、小賢しい小理屈もモラルも、かなぐり捨てればいい。
セックスにそんなに理由が必要か?
したいか、したくないかだろ?
いまの鞠村は、こんなにも御薗生を欲しがっているのに、なにをためらうのか。彫像のように凍りついている男を一瞥して、シーナは宣言した。
「別にいい。あんたが抱けないなら、俺が抱くから。そのまま指くわえて見てれば?」
発情の熱を抱えこんで震える、裸の鞠村の上にのしかかる。
「……ぁ、ひうぅ、んうぅ」
フローリングの床が水たまりになるほど濡れている。透明な蜜を零す源泉に手を伸ばしたところで、肩をつかまれていた。
「どけっ!」
とうとう、こらえきれなくなった御薗生がシーナを突き飛ばしていた。
「っつー……いてぇ、ってば」
シーナはしたたかに打ちつけた肘をさすりながら、鞠村の側へよった御薗生を見ていた。
「鞠村。本当に、俺でいいのか?」
「み、そのぉ、……す、き」
濡れた舌が唇のまわりを舐めまわす仕草が、ひどく淫蕩に見える。
普段、シーナが抱いていも、どこか清楚で凛とした雰囲気のあるのに、うわごとのように御薗生の名前を繰り返す。
こんなにも、好きな相手がいるのに。
なんで、俺なんかに抱かれたんだよ。
文句を言ってやりたいが、そうもいかない。
なんのことはない。鞠村も御薗生も、相思相愛じゃないか。互いの気持ちを伝えていないだけ。
シーナがお膳立てしてやらなければ、二人は仲のいい同期のままで別れていただろう。
「……んうッ、ン」
粘膜ごと掻き混ぜあうような、濃密なキスだった。しかも長い。シーナとのキスより、三倍は長い。よく息が続くものだ。感心するというか、呆れるというか。
促進剤を使って引き起こしたとはいえ、発情期のΩと、煽られたαの二人が、ようやく思いを通じ合わせたのだ。燃え上がるのも道理だ。
αにうなじを噛まれないための、Ωを保護する首輪だって必要ない。好きあった二人が番になって、仲睦まじく暮らす。最高のエンディング。問題はたった一つ。シーナが当事者ではないこと。
絡み合った舌がようやく離れ、二人の口を繋ぐ糸が伸びている。まったく、ごちそうさま、だ。シーナとしては人の恋路を邪魔するつもりはないので、とっととケツまくって退散したい。
「待って」
帰り支度をととのえるシーナに気づいた御薗生が呼び止める。
「なんだよ。もう十分だろ。あとは二人でよろしくやってくれ」
「本当のことを話してください。あなたと鞠村は、どういう関係ですか」
息が上がっているとは思えない流暢な問いに、シーナは考えこんだ。
「どういうって」
オメガクラブ、レーヴのスタッフと客なんていう、正直な答えがマズイことはわかる。鞠村の立場を考えれば、口をつぐまざるをえない。
「答えられない関係、なんですね」
「いや、そういうんじゃなくて、俺は別に、」
「言い訳は聞きたくない。だから、そこで見ていてください。俺が、どれだけ鞠村を愛してるか」
「えっ」
思いがけない言葉にシーナは口をあんぐりと開けた。だが、御薗生はおかまいなしに不敵な笑みを浮かべると、鞠村を抱えあげてベッドへ運ぶ。
そのまま、シーツの上にしどけなく寝そべった鞠村の上にのしかかった。
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