921人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
他人のベッドシーンなど、覗き見るつもりはなかった。
Ωとしてレーヴに勤めていれば、こうした行為など特別なものではなくなる。一般の人にとっては、特別で大切な時間でも、シーナには日常だ。
発情期以外、まともな理性のある時は、正直、客によっては不快な思いをすることもある。体を切り売りする仕事だと割り切れない日もある。けれど、他の生き方はできないと思い知る。
番が欲しい、と切望していた。
自分だけを愛してくれる。特別な相手がいたなら、と夢想した。
強がって、一人で生きていくのがしんどくて、倒れそうになるから。
つらい思いばかりの日々に、伴走者が欲しかった。
「ああッ……」
思うままに声をあげる鞠村の姿が、シーナの目に飛びこんでくる。
Ωに生まれて、一番、幸せな瞬間。
想いを寄せていたαに、すべてを委ねて、存分に溺れてしまえる。
シーナは両手で口を押さえて、二人の結合の瞬間を見ていた。
自分の体では、数えきれないくらい受け止めてきたけれど、他のΩの情事を間近で見ることなんてない。
「みそのぉ、いいっ……なか、いっぱい入ってるぅ」
「まだ、だ。あと、半分くらい」
「ええッ?!」
「奥まで、入れてあげるから」
「あっ、え、ひぃ、あああアアッ!!」
そこが人一倍大きくて立派なのは、αの特徴だ。Ωであるシーナのサイズしか知らないらしい鞠村には、未知の衝撃だろう。容易に想像できる。
「すごいな。鞠村のここ、全部入った」
「やぁ、あああッ」
鞠村と御薗生、二人の共同作業で部屋全体が湿っぽくなった気がする。明らかに、温度も湿度もあがっている。外は寒かったのに、しゃがみこんでいるだけのシーナでさえ、うっすらと汗ばんでいる。
恋がしたいな、と思った。
生理的欲求を満たすことに、こだわりすぎていたのか。
それとも、定期的に発情するΩの体を、痛めつけたかったのか。
どちらにしろ、シーナは暗い衝動でしか生きていなかったのだと思い知らされる。
「すき……だいすき……」
いま、思いが通じあったばかりとは思えない。
鞠村は御薗生を求め、御薗生は鞠村を求めて、体を重ねている。
「痛くない?」
強烈なΩのフェロモンに当てられ、我を忘れて貪っていてもおかしくないのに、御薗生はやさしい。見ていて腹立たしくなるくらいに。
「ううん……へいき、だから。きて、もっと、いっぱい」
「煽るな。ただでさえ、ギリギリなのに」
御薗生は小さく吼えると、鞠村の腿を抱え上げて腰を打ちつけた。奥深くまで押しつけられ、ゆっくりと引き抜かれる。ゆるやかだった動きは次第にスピードがあがり、パイプベッドが揺れ、肌を打つ音が響く。
「あ、あ、ああッ!」
パイプが軋み、鞠村が高い声で喘ぐ。
いやらしい。そう思いたいのに、思えない。
発情期の真っ最中だろ? αとΩだろ?
もっと、獣らしくまぐわえばいいのに。けれど、二人の営みはまるで恋人同士のように甘くて。シーナは吐き気を覚える。
ああ、嫌だ。
嫉妬か? みっともない。
同じΩが、想いを寄せていたαと睦みあっているのを、祝福できないなんて。そもそも、鞠村をけしかけたのはシーナのほうなのに。
どうにも、熱が冷めない。
羨ましくて、妬ましくて、情けなくて、見とれてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!