シーナのとまどい(Ω×Ω)

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 他人のベッドシーンなど、覗き見るつもりはなかった。  Ωとしてレーヴに勤めていれば、こうした行為など特別なものではなくなる。一般の人にとっては、特別で大切な時間でも、シーナには日常だ。  発情期以外、まともな理性のある時は、正直、客によっては不快な思いをすることもある。体を切り売りする仕事だと割り切れない日もある。けれど、他の生き方はできないと思い知る。  番が欲しい、と切望していた。  自分だけを愛してくれる。特別な相手がいたなら、と夢想した。  強がって、一人で生きていくのがしんどくて、倒れそうになるから。  つらい思いばかりの日々に、伴走者が欲しかった。 「ああッ……」  思うままに声をあげる鞠村の姿が、シーナの目に飛びこんでくる。  Ωに生まれて、一番、幸せな瞬間。  想いを寄せていたαに、すべてを委ねて、存分に溺れてしまえる。  シーナは両手で口を押さえて、二人の結合の瞬間を見ていた。  自分の体では、数えきれないくらい受け止めてきたけれど、他のΩの情事を間近で見ることなんてない。 「みそのぉ、いいっ……なか、いっぱい入ってるぅ」 「まだ、だ。あと、半分くらい」 「ええッ?!」 「奥まで、入れてあげるから」 「あっ、え、ひぃ、あああアアッ!!」  そこが人一倍大きくて立派なのは、αの特徴だ。Ωであるシーナのサイズしか知らないらしい鞠村には、未知の衝撃だろう。容易に想像できる。 「すごいな。鞠村のここ、全部入った」 「やぁ、あああッ」  鞠村と御薗生、二人の共同作業で部屋全体が湿っぽくなった気がする。明らかに、温度も湿度もあがっている。外は寒かったのに、しゃがみこんでいるだけのシーナでさえ、うっすらと汗ばんでいる。  恋がしたいな、と思った。  生理的欲求を満たすことに、こだわりすぎていたのか。  それとも、定期的に発情するΩの体を、痛めつけたかったのか。  どちらにしろ、シーナは暗い衝動でしか生きていなかったのだと思い知らされる。 「すき……だいすき……」  いま、思いが通じあったばかりとは思えない。  鞠村は御薗生を求め、御薗生は鞠村を求めて、体を重ねている。 「痛くない?」  強烈なΩのフェロモンに当てられ、我を忘れて貪っていてもおかしくないのに、御薗生はやさしい。見ていて腹立たしくなるくらいに。 「ううん……へいき、だから。きて、もっと、いっぱい」 「煽るな。ただでさえ、ギリギリなのに」  御薗生は小さく吼えると、鞠村の腿を抱え上げて腰を打ちつけた。奥深くまで押しつけられ、ゆっくりと引き抜かれる。ゆるやかだった動きは次第にスピードがあがり、パイプベッドが揺れ、肌を打つ音が響く。 「あ、あ、ああッ!」  パイプが軋み、鞠村が高い声で喘ぐ。  いやらしい。そう思いたいのに、思えない。  発情期の真っ最中だろ? αとΩだろ?  もっと、獣らしくまぐわえばいいのに。けれど、二人の営みはまるで恋人同士のように甘くて。シーナは吐き気を覚える。  ああ、嫌だ。  嫉妬か? みっともない。  同じΩが、想いを寄せていたαと睦みあっているのを、祝福できないなんて。そもそも、鞠村をけしかけたのはシーナのほうなのに。  どうにも、熱が冷めない。  羨ましくて、妬ましくて、情けなくて、見とれてしまう。
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