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「あ、あっ、ダメ、それ、ひゃあン……!」
与えられる快楽に染まった鞠村は美しかった。
下肢をαの肉杭で縫いとめられ、断続した抽送に体を震わせて感じている。腰の線をねっとりと撫であげられる。くっついては離れ、離れてはくっつく唇には、どちらのものともわからない唾液が絡まっている。
うしろを塞がれながら前を硬くして、御薗生の背中に手をまわし、強くしがみついている。
突きあげられる度に腰を浮かせている姿に、犯しがたい神々しさのようなものを感じる。
乱れている姿がきれいで、シーナは息を飲んで見入っていた。
「え、あ、なにっ……ツゥ」
御薗生が、鞠村の手首を掴んで、指を噛んでいる。えずくほど奥まで銜えこみ、天井を見上げている。
「……あぁ」
発情しているΩのうなじに噛みついて、番にしてしまいたいというのは、αに備わった本性だ。
御薗生はαの性質にさからって、口を塞ぐことでこらえている。
「番になればいいじゃん」
シーナのつぶやきは、盛っている二人の耳に届いたのか、届いていないのか。
「あっ、ひゃあ、ンンッ、も……イくぅ!」
鞠村が声をあげると、御薗生の動きはさらに加速する。パイプベッドが最後の悲鳴をあげる。切羽詰まった嬌声とともに、二人が相次いで逐情したのは気配でわかった。
シーナの体も熱くなっている。
まるで、発情期が感染したように、微熱を孕んでいる。
回数だけなら、シーナのほうがよほど経験しているのに。こんなに思っている相手と抱き合ったことは、一度もない。
惨めさは感じても、後悔はしない。
鞠村のこれほど、素の顔を見られたのだから。
「ご、ごめん……こんな、恥ずかしいとこ、見せて」
一度達して、正気を取り戻した鞠村は、シーナの視線に気づいた。慌てて起き上がろうとするが、御薗生に再びベッドに押し倒される。
「待てよ」
「御薗生?」
「まだ、抜いてないだろ」
「あっ」
鞠村の頬が羞恥で赤くなる。両手で顔を覆うと、蚊の鳴くような声でぼやいた。
「ああ、はずかしい……」
ごろりと背を向けて、縮こまる姿が微笑ましくて、シーナは先ほど覚えた苛立ちが消えていくのを感じた。
鞠村は、かわいい。幸せになって欲しい人だ。
始まりは、レーヴの客とスタッフの関係だったけれど、ここまで深く関わってしまったいま、一人のΩの幸せを応援したい。
「ごめん。無理に迫るようなことして、でも、俺が鞠村を好きだって気持ちに変わりはない。他の男に渡したくないって気持ちも」
息を整えた御薗生は、そう切り出した。
「本当に、いいの。僕なんかで」
「俺は、お前が好きだ。できれば、俺の番になってほしい」
「御薗生……」
肘をついて上半身を起こし、鞠村の前髪を梳きながら、低い声でささやく。
「じゃないと、いつ、他の男にかっさらわれるか不安で仕方ない。おまえを置いて転勤なんてしたくない」
「駄目だって。転勤はお仕事だから。会社が、みんなが、御薗生に期待しているってことだから」
「だったら、いますぐ、俺の番になってくれ」
「え」
「鞠村が俺のものだって、確かな印を残せたら、きちんと仕事が続けられるから」
鞠村は唇を噛んでいる。
なにを躊躇うことがあるのか。シーナなら、すぐにYESと言っている。好きな相手に求められて、どうして即答しないのか。一生に一度のチャンスを棒に振るなんて馬鹿げてる。
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