916人が本棚に入れています
本棚に追加
/396ページ
ルカと二階堂は不在の時間を埋めるように、激しく抱き合った。
寝落ちしそうになりながらも、どうにかしてシャワーを浴びると、一つのベッドで泥のように眠った。
断続的な甲高い電子音を聞いて、ルカは寝返りをうった。
スマホのアラームだけど、とても起きられそうにない。学校? 一日くらい休んでもいい。いや、一コマくらい、いいだろう。毛布をかぶって、あたたかな世界に潜りこむ。
そこにあるはずの二階堂のぬくもりが、なかった。
「ルカ。スマホ鳴ってるよ。いいの?」
くるまった毛布を剥ぎ取られ、冷たい空気と直面する。アラームうるさい。
二階堂さんも、こんな朝早くから身支度済んでるとかありえない。
「さ、さむい、ムリ……もう、今日はこのままで」
「ルカがいいなら、いいんだけど。大丈夫? 昨日は無理させたから心配で。体がきついなら、病院で診てもらったほうが」
「……それだ!」
「え?」
「病院、行かなきゃ」
渡されたスマホを見て、時間を確かめる。
「ここからだと、地下鉄三本を乗り継ぎだから。まずい。時間ない」
「どこが悪いんだ?」
「え、いや。どこって、いうか、その」
レーヴで天宮に定期検診を勧められた経緯を手短に話すと、二階堂は頷きながら言った。
「わかった。アタシが車出すから。一緒に病院へ行こう」
「え、でも、仕事が忙しいんでしょう?」
「いいよ。一段落したから。今日は休みにする。夜だけ、人に会う用事があるんだけど」
「すみません。なんだか、迷惑かけてしまって」
「ルカ、なんでそんなに遠慮するの? もっと頼って欲しい。迷惑なんて、思ったことはないんだから」
「うん。ありがとう。あ、時間が」
「着替えておいで。パンなら、車の中で食べればいいから」
乗り継ぎが複雑で、駅からも距離のある専門機関だったので、車で送ってもらえたのは助かった。とはいえ、道路も混雑していたので、結果的に予約時間にはギリギリになってしまったが。
「二階堂さん、あの」
「なあに?」
「車運転すると、ヒト変わるって言われませんか?」
渋滞を抜け出た途端に、荒々しい運転で目的地へ突っこんでいった二階堂の隣で、ルカは真っ青になっていた。
「車酔いするほうだった?」
「いや、そうでもないんだ、けど」
どちらにしろ、あまり食欲がなくて、オレンジジュースしか飲んでいなかったのが幸いだった。満腹の状態で左右に振られていたら、確実に気分が悪くなっている。
「え、病院についてくるんですか?」
「あのね。アタシはルカのパートナーじゃないの?」
「あ、はい。すみません」
「今度から、ルカが無意味に謝る度に、罰則にしようかな。なにがいいかな」
「どうせ、エロいこと考えてるんでしょ……」
ルカが指摘すると、二階堂は涼しい顔で鼻歌を漏らしていた。
早足で中へ入り、受付を済ませると、首からさげるタイプのカードホルダーを渡された。診察券と受診票が入っている。
案内された通りにエスカレーターで四階へ向かい、Ωの専門科に手にしていたフォルダーを渡した。番号を呼ばれるまで待っているように言われ、並んで腰かけた。
病院の空調は効きすぎていて、汗ばむくらいだった。コートを脱いで丸める。予約制のため、ラウンジで待っている患者は他に三名しかいない。
「緊張してるね」
「……うん」
「大丈夫。なにがあっても、アタシがついてるから」
隣に座る二階堂が、ルカの手を握ってくれた。
いまのルカと二階堂は、他人からはどんな風に見えるだろうか。
どう見えてもかまわない。二階堂は、ルカにとって、かけがえのないパートナーに違いないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!