イヴはまた眠れない(α×Ω)

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イヴはまた眠れない(α×Ω)

 ……繋がらなければいいのに。  規則的な呼び出し音を聞きつつ、イヴは息をつめて、必死に耳をすませていた。 『もしもし?』  電話向こうの様子をどうにか探ろうとするが、余計な音は聞こえてこない。時刻は夜十時を過ぎたところだ。自宅にいると考えれば自然だ。 『もしもし? イヴか?』  名乗る前に、神蔵のほうから尋ねられてしまえば、否定はできない。 『メモ、見てくれたんだろう。ありがとう。忙しいのに』  電話が繋がって初めて、乗り換えたはずの新しいスマホから電話していることに気づく。  発信番号を非通知にはしなかった。神蔵からの連絡を断つために買い替えたのに、なんの意味もない。いや、レーヴを知られた時点で、連絡を断ち切るのが難しくなってはいるのだが。 『急な話で悪いんだけど、明日の昼、会えないかな』 「……明日?」 『ああ、イヴを案内したいところがあるんだ。十二時に、そっちに迎えに行ってもいいかな』 「わかった。通用口にいる」  ほら。もう会わないと決心したそばから、会う約束をしてしまう。自分の意志の弱さを、イヴは心の中で嘲る。  昼間に会いたい。行きたい場所があるという言葉の意味を考える。考えたところで、結論は出ない。 『ありがとう。じゃ、迎えに行くから』  心なしか神蔵の口調が弾んで聞こえるのは、イヴの欲目か。要件だけ伝えると電話は呆気なく切れた。  夕方には帰りたいとか、行き先によってはドレスコードはあるのかとか、聞きたいことはいろいろあったはずなのに、何ひとつ聞けなかった。浮かれていたのはイヴのほうだったか。  坊ちゃん育ちの神蔵は、時々、突拍子もないことをする。誕生日祝いだからと言って、普段着のイヴを有名店のコース料理でもてなそうとして喧嘩になったこともあった。  あの時は、予約をキャンセルするほうがもったいないという話になり、神蔵のジャケットを借りて羽織ることで、誕生日のイヴが折れた。  今度はどこに連れていくつもりやら。厄介だと思いながら、鼻歌混じりになっている自分に気づく。 ……だから、嫌なんだ。  イヴは乱暴に髪を掻きむしりながら、頭を振った。視界に、まだ昏々と眠っているリリトの姿が目に入ってくる。明日出かけるなら、彼のことを天宮に頼んでいかなくては。イヴがいない間に、突然目覚めたらパニックになるだろう。  結局、イヴの部屋で寝ていたリリトは、もう一度、目を覚まして水だけ飲んだものの、また眠りに落ちていた。  イヴのほうが、気になって寝つけなかった。ソファに横たわって、頭から毛布をかぶっても、リリトがちゃんと息をしているか気になってしまう。  朝になって鏡で確かめれば、イヴの顔には濃い色のクマができていた。
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