シーナのとまどい(Ω×Ω)

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シーナのとまどい(Ω×Ω)

 なにが、どうして、こうなった。  シーナは体は熱に浮かされていながら、頭の一部が、時の経過とともに冷めていくのを感じている。  オメガクラブ、レーヴの一室で、客とベッドをともにしている最中である。シーナの下にいるのは、まだ若い、学生服が似合いそうなほど、あどけない顔の青年。名前を、鞠村(まりむら)という。  どういうわけか、鞠村はシーナを指名してくる。いや、シーナ以外を指名したことがない。天宮から、そう聞いている。  専門学校に通っているシーナは、上京と同時にレーヴの仕事を始めた。  シルバーに染められたショートヘア、剥き出しになった両耳は合計五個のピアスで飾られている。左上腕には幾何学模様のタトゥー。それと、右の太腿の高い位置に天使がいる。一夜を過ごした相手しか見えない、シーナの秘密だった。  そのシーナの下で、鞠村はかわいい喘ぎ声をあげている。  動作の一つ一つに反応する姿を愛しく思いはするものの、シーナはレーヴに所属するΩである。普段とは反対の役割を求められ、応じはするものの、どうしても違和感は拭えない。  鞠村の指名は、Ωであるシーナに抱いてほしいというものだった。 「……ぅ、……ッ」  シーナが突きあげる度に、鞠村の指が宙を掻く。今日で三回目のご指名だが、まるで慣れない。初々しい反応をされると、シーナの中で普段は眠っている情欲が目を覚ます。Ωの自分にある、男らしさのようなものを思うと妙に、こそばゆい。 「痛い? もう、やめようか?」 「や、やめないで、おねがい……」  涙ぐみながら、続けて欲しいとねだる姿がいじらしい。シーナは耳のピアスに軽く触れると、ふっと息を漏らした。わずかな振動も体越しに鞠村へと伝わる。硬く目を閉じて、肩を震わせて耐えている。 「じゃあ、もう少し、こうしてるから」  奥深く繋がったまま、震える鞠村に口づける。汗ばんだ肌が重なり、ローションでぬかるんだ後孔が卑猥な音を立てる。 「ンンぅ……」  何度かわしても、うまくならないキス。舌を入れてやると、どうにか応えようとするが、まるでなっていない。中学生以下の拙いキス。  鞠村はΩだが、発情期ではない。  なのに、シーナをせがむ。  指名料と手間と時間をかけて、シーナに抱いて欲しいと言う。 「ね、どうして、俺がよかったの?」 「痛いの、苦手、だから」  繋がったままの会話は少し滑稽。でも、抱き合っていると嘘がなくなる気がして、シーナは嫌いじゃない。  痛いのが苦手と言いながら、Ωのシーナ相手に、発情期でもないのに抱いて欲しいと望む。番のいない体が苦しいなら、レーヴのスタッフになればいいと勧めてみても、そのつもりはないと断られる。  正直、シーナは鞠村の考えていることがよくわからない。 「シーナさんは、ピアス、いっぱいあるから、痛みを、知ってると思って」 「そんなの初めて言われたよ」  苦笑いすると、下腹が揺れて鞠村にも伝わる。皺だらけのシーツが、さらにくしゃくしゃになる。  ピアスが増えていく度に言われてきたのは、痛そう、信じられない、痛覚が人より鈍いんじゃないかという、否定的な言葉ばかり。中にはかっこいいと言って誉めてくれる男もいたが、軽いノリで身を飾る男や女とは話が合わなかった。 「俺、べつに、痛いのが好きなわけじゃないよ」 「うん」  好きじゃない。でも、痛みを与えていないと、おかしくなりそうで、次々と穴を開けた。 「ピアスより、こっちのほうが痛かったけどね」  右太腿の内側にいる天使を指すと、鞠村は目を見開いて、自分がタトゥーを彫られたかのように顔をしかめた。 「ごめん。痛い話、苦手だよね」 「ううん。平気」 「ね。うんとやさしくするから、続き、していい?」 「……うん」  はにかむように奥歯を噛みしめる鞠村がかわいらしくて、シーナは緩やかなな抽送を再開した。  少女のように恥じらう鞠村を見ているだけで、満たされた気持ちになる。 「んぅ、んァ……ッ」  もっと、感じさせたい。自分しか知らない男を、自分のやり方で染めてしまいたい。やっぱり、Ωとはいえ男だったんだと思いながら、シーナは鞠村との行為に溺れていった。
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