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イヴは逃避する(β×Ω)
なにもかも、どうでもいい。
すべてが、くだらない。
Ωの因果な習性も、Ωに惑わされる男たちも、馬鹿馬鹿しい。
イヴが三ヶ月に一度の発情期を迎えてから、四日目の夜だった。
体の節々の痛みさえ気にせずに、客との情事に耽っていた。気持ちの伴わない商売。相手は誰でもいい。圧倒的な飢餓感を埋めてくれるなら、なんでもする。
Ωに生まれる男は、前世でよほどの悪いことをしたのだろう。ろくな人生を送ってこなかったのだ。だから、卑しいΩなんかに生まれ落ちる。
オスの性器が猛る。
メスの性器が疼く。
特に発情期はひどい。
狂ったように見境なく、交尾相手を求め続ける。少しでも優秀な種を求めて、手当り次第に誘いこむ。サルよりもところかまわず、春のネコよりも媚びた声で、身の内に燃えさかる欲望を満たそうとする。
きっとΩは、人よりも欠落が多いのだ。足りないから求める。代わりのモノで埋めようとする。
発情期が来てから、何人の客と寝ただろう。イヴは働かない頭で考える。
頭なんて、空っぽでいいのに。Ωなんて、ただの穴。ソコさえ使えれば十分。みんな、たてまえはともかく、本音ではそう思っているだろう?
Ωには、それ以外の価値なんてない。
シンプルに、必要とされる部分だけで、生きていられればいい。
いま、生きていることに意味なんてない。惰性。慣性の法則。Ωなんて、消費されるためにあるスケープゴート。だから、愛なんて信じない。
愛がなくても、情事には差し支えないのだから。
「ギュウギュウに締めつけてくるね。コレが、好きなんだろう」
耳元に湿った息を吹きかけられて、イヴは我に返った。
今夜の客もイヴに夢中だった。五十がらみのβは、若い男のような激しさはないが、ねちっこくイヴの体を翻弄してくる。感じるところを探し当て、執拗に責められれば、嫌でも熱くなる。
いまも、身の裡を掻きまわすように、緩急のついた抽送が続く。入ってくるのがよくて、出ていくのもいい。蜜液にまみれた肉襞の凹凸を執拗に擦られると、快感で頭が真っ白になる。
酷使し続けた秘所が鈍く痛むけれど、麻薬のような快楽の前にどうでもよくなる。
「すき。……いい。これ、すごく、イイよ」
イヴが蕩けた声で囁けば、男も嬉しそうに頷く。単純だけど、一番効果的。男は誉めて、おだてて使えばいい。わずかなリップサービスで、βでも年配でも、いい仕事をしてくれる。
腰を左右に揺らしながら、下腹にやんわりと圧をかける。締めすぎても巧くない。若い男ほど早くはないが、急な締めつけは容易にフィニッシュに達してしまう。
適度に内側から刺激しつつ、インターバルを挟む。長くゆっくり楽しみたいのは、イヴも客も同じだ。男の繊細な部分も理解しているので、女よりも男のΩのほうが具合がいいという客も少なくない。
主導権をゆだねているフリをして、こっちのペースに持ちこむ。
「ううっ、しまる。イヴは最高だよ。こらえるのが、大変だ」
「だって、きもちいい、から」
「うん。俺もイイ」
「ここ、当たってる。あッ、んんぅ」
自分から擦りあげると、男の喉から押し殺した呻きが漏れる。
「……もう。そんな不意打ちされると、もっと襲いたくなる」
「ああ、アンッ……」
ぴしゃりと尻を打たれて、イヴは大きくのけぞった。別に被虐癖はないと思うが、セックスは少し意地悪されるくらいが好きだ。痛いのも苦しいのも辛いのも、むしろ気持ちいい。体の感覚だけに集中できる。
「叩かれて、また締まるなんて、本当にいやらしいな」
「やあッ」
両方の手首をつかまれて、力づくで突かれる。
たまらなく気持ちいい。自傷じみた乱暴な行為に感じてしまう。
「イヴの、もっとエッチな顔、見せて」
煽って、煽られて、さらに熱くなる。
だって、Ωだから。
交尾以外に、Ωの存在価値なんてない。
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