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息子の異変
「きゃあ!」
わたしは、悲鳴をあげた。創太は、相変わらずの無表情で。…手を血で、赤く染めている。
「な、何してるの…!」
創太は、右手に小刀を。左手に鳩を握りしめている。鳩は、首根っこと、腹部を引き裂かれ、血と内臓が飛び出している…。
出血の多さと、体の外に出た臓物から、鳩が死んでいることは、あきらかだった…。
「…創太が、やったの?」
お願い…。違うと言って。創太は、わたしの子は、こんなことをしないと否定して。
そんな希望とは裏腹に、創太は無言でうなずいた。
「創太…。鳩さんはね、殺しちゃいけないの。わかる、かな?」
黙ってうなずく、創太。
「鳩さんね。痛い痛いって、言ってるよ。もうこんなことしないでね…?」
…早く片付けて。何も無かった事にしてしまおう。
明日から、また、幼稚園に通うんだから。
「お母さん」
「なあに?手は、そこで洗ってね。一人で出来るでしょ?」
創太は、男の子だもの。多少、残酷な所があっても、仕方がない。
「どうして、片付けるの?」
「何、言ってるの。片付けないと、汚いでしょ?」
振り返ると、創太はまだ小刀を握りしめていた。
「創太、危ないから。刃物は、お母さんが預かるわ」
渡して、と手を伸ばす。
「…いわれなかったの?」
「何を?」
「いのち…」
ふと、昨日の言葉を思い出す。夫の言った言葉。
『命を頂いているんだ』
創太はキチンと、学習していたのだ。
「そうだね。わたし達は、命を頂いているんだね」
コクンと、創太がうなずく。
「…大事な、命を頂いたんだもの。キチンと、埋葬しないとね」
庭の花壇に、埋めてあげよう。創太は、本当は優しい子。
わたしは、安心した。
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