妄想プリズム

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 18時前の研究室は盛況だった。  これからが(多くの学生の)本番なので当然ではあるが、楓は逆に後始末に掛かっていた。組み直したタスクの進行に合わせ、たためるものをひとまずたたむ。明日はココに顔を出せるか分からない。 「山科さん、こっち、もうすぐ終わります」 「おう、了解。ありがとう」  四年生の声に、別のモニタを眺めていた楓は浅く頷く。 「悪いけど、これかけっぱで出るから。終わったら閉じていい」 「わかりました。あれ、今日はもう帰るんすか?」 「さすがにな。そろそろ寝さして」  お疲れでーす、という綿毛のような挨拶を聞き流しながら、楓はざっくりとログを確認する。漏れや抜けはないようなので、スケジュールの収支は合うはずだ。机を急いで片付けながら、彼とのやり取りを続けていた。  「もうすぐ終わる。いまどこ」  「電車」  「(答えになってねえよ)到着は? 何時」  「あと30分くらい」  間に合うかどうか、と片眉を上げたところで、ふと思い立って「どこに」と訊くと、「烏丸、18:26着らしい」と返ってきた。 「は? からすま?!」  思わず声が出た。周囲の連中が振り返るが、気にしている余裕がない。  どういうことだ。なぜ京都駅ではないのか。庶民なら新幹線など以ての外だが、彼の場合グリーン車だって文句は言われないだろう。何をやっているのか。おそらくここに近いとか、料金が一番安いとかそんな理由だろうが。  第一、彼の実家は京都駅の方が近い。  こういうことを平気でするから…  楓は大きくため息を吐いて、それでも白衣を投げ出す。ロングカーディガンを摑んで「おさきー」と言いながら研究室を出た。
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