101人が本棚に入れています
本棚に追加
18時前の研究室は盛況だった。
これからが(多くの学生の)本番なので当然ではあるが、楓は逆に後始末に掛かっていた。組み直したタスクの進行に合わせ、たためるものをひとまずたたむ。明日はココに顔を出せるか分からない。
「山科さん、こっち、もうすぐ終わります」
「おう、了解。ありがとう」
四年生の声に、別のモニタを眺めていた楓は浅く頷く。
「悪いけど、これかけっぱで出るから。終わったら閉じていい」
「わかりました。あれ、今日はもう帰るんすか?」
「さすがにな。そろそろ寝さして」
お疲れでーす、という綿毛のような挨拶を聞き流しながら、楓はざっくりとログを確認する。漏れや抜けはないようなので、スケジュールの収支は合うはずだ。机を急いで片付けながら、彼とのやり取りを続けていた。
「もうすぐ終わる。いまどこ」
「電車」
「(答えになってねえよ)到着は? 何時」
「あと30分くらい」
間に合うかどうか、と片眉を上げたところで、ふと思い立って「どこに」と訊くと、「烏丸、18:26着らしい」と返ってきた。
「は? からすま?!」
思わず声が出た。周囲の連中が振り返るが、気にしている余裕がない。
どういうことだ。なぜ京都駅ではないのか。庶民なら新幹線など以ての外だが、彼の場合グリーン車だって文句は言われないだろう。何をやっているのか。おそらくここに近いとか、料金が一番安いとかそんな理由だろうが。
第一、彼の実家は京都駅の方が近い。
こういうことを平気でするから…
楓は大きくため息を吐いて、それでも白衣を投げ出す。ロングカーディガンを摑んで「おさきー」と言いながら研究室を出た。
最初のコメントを投稿しよう!