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 真白は私に気が付くと、トランペットを口から離した。 「あ、真琴先輩っ。陽ちゃん先生から話があるって美果先輩が」  すると、呼ばれたようにして美果が音楽準備室から顔を覗かせた。横髪の触覚ヘアが軽く揺れる。私と目が合うと、けれどもすぐに、顔を引っ込めた。  その拍子に美果の持つ譜面台から何かが落ちる。硬い音と共に、四角い銀色のチューナーが廊下へ滑るように転がった。そのまま、廊下の隅の浅い溝へ転がり込む。 「……私のチューナーじゃん、これ」  そこ、掃除するときに埃溜めるところなんだけどな。 「まあまあ、いいじゃないですかー、そんなケチケチしなくたって。てか美果ちゃん先輩も直接言えばいいのに」  私よりも先に、真白はその足もとにまで転がったチューナーを拾ってくれた。軽く埃まで払ってくれる。  美果の慌てっぷりからも、先生からの話の内容は凡そ予想がつく。だいたい、それについての話で担任の呼び出しを喰らったばかりなのだ。川本先生からも呼び出される覚悟は最初から出来ている。  チューナーを手渡されるとき、真白はほんのり何かを期待するような笑みを浮かべた。 「で、先輩先輩、もしかしてなんですけど、話ってもしかして期末のことですか……!」  私にしか聞こえないような、小さな声だった。 「ん、知らないけど、そうなのかな」  受け取りながら、内心、拾ってくれなければ良かったのにな、と毒づく。 「あれって本当なんです? 期末テストの話」 「テストって?」 「えー、わかってるでしょー。教えてくださいよぉ」  僅か、息をつく。僅かに安心してしまう自分がいた。楽しそうで羨ましい。責められそうなような雰囲気ではなかった。真白のことだから無邪気な好奇心そのままなのだろう、きっと。 「まーこー! はよ、こっち来る」  川本先生の声。苛立っていそうな、キツめの声だった。準備室の奥で、丸椅子に座ってこちらを手招いている。ともかくチューナー受け取って、結局、真白には曖昧に首を捻ってみせるだけに留まった。
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