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 口は開いた。そのまま、声にはならなかった。私はこれを表すことのできる言葉を知らないし、これそのものがここにあってはならない、あることができない。  言葉にしようとして、けれども言葉は喉の奥に引っかかったままになる。言うな、言ってはいけない、そう背後から囁かれる。もしかしたら壁からも。それは、そこにあってはいけない。そこには、この、これは。 「絶対わざとよね。この前までずっと学年トップ独走してたマコが急にバカになるとか、絶ッ対、ありえんから」 「そんなこと……先生が言っても大丈夫なんですか」 「だって事実じゃん。音楽だけフツーに満点だったし。何もないならこんなことしないでしょ。ウチにも言えんことなわけ?」 「……美果から聞いたんですよね」  先生は首を横に振った。 「逃げない。マコの口から聞いてない。このままだと部活に出せなくなる。この前から何点下がってると思ってるわけ? 言わないなら夏休みいっぱい部に来ちゃいけなくなる。そうなると、事実上の引退よ。最後のコンクールにも出れないまま、ひと足早く引退になっちゃうけど良いの?」 「そんなわけ」  停部。その単語が脳裏を掠めた。一番嫌なものを喉元に突きつけられて、いよいよその先を探る。何なら言える。私は、先生に、何なら言える。 「わざとなのは、事実ですけど」 「理由は?」  射すくめてくるかのような視線。何を言えば、先生を納得させられる。何が事実にある。これは何だ。何がここにある。 「どうしてわざとやったのよ。あのまま成績ついちゃったら、マコ、どうなるかわかってんよね。誰かから何か言われたりした?」 「――何も」  息を詰まらせかけておいて、あれ、と思った。このままだと、あまり歓迎できない方向に勘違いされるのではないか。そうではなかった。誰かに命じられたとか、そんなことは一切なかった。
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