それはきっと、夢の中

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 呆けて立ちすくむ私に彼の手が伸びる。  その指先が近づいて来るのを、信じられない気持ちでぼんやりと眺めた。  触れられるほど近づかれてハッと我に返り一歩下がると、片眉を上げて面白そうにくすりと笑われる。  その笑顔に不覚にも胸がドキっとする。え、何この動悸息切れ。いや、ええと、きっとシャルロットとリアルにシンクロしてるに違いない。  ……へえ、ちょっとキツめの瞳だけど、笑うと垂れ目になるんだ。あ、泣きぼくろ発見。  声なく動く彼の唇が、何かを告げる……『みつけた』……?  もう一度手を伸ばされて  遠くで鳴る鐘の音  鳥の声――  ――布団に起き上がり、けたたましく鳴り響くベルをばちんと止める。  カーテンの隙間からは爽やかな朝の日差し。見慣れた自分の部屋。  裏の公園から何故か聞こえてくるホーホケキョ……いつものヒヨドリはどこに行った。  大音量目覚まし時計の威力は抜群だった。 * * *  今朝も元気な美波は、私を見つけると笑顔満開で走り寄ってきた。  いやあ、ごめん。今日はちょっとそのテンションについていけるほど回復していないんだ。  なんだったんだろう、アレ。まだすっごいモヤモヤしてる。 「うーわ眠そうね。まあ、これ聞いて目ぇ覚まして。主任(シュートメ)、向こうの支所に異動だって。しかも今日付け」 「は? これまた急に」  おっと、バッチリ起きたよ。マジか。昨日まで元気に小言してたのに。  あれは何だ、置き土産だったのか。要らぬ。 「内示はあったらしいけどね、相変わらずだねウチの人事の秘密主義も。代わりの人、早速来てるよ。仕事に厳しい結構なイケメンともっぱらの噂」 「中身がシュートメでなければ、どんなんでもいいわ」 「あはは、確かにねー」  それじゃあまたお昼にね、と手を振って席に戻る。  さて課長も来る時間だし朝礼だ。入室の音に立ち上がれば、課長の後ろに続くのは新・主任。  フロアに着くなり私をガン見している彼は、日本人だから当然黒髪で、あ、目元にほくろ……あれ、ちょっとデジャブ。  ――は、あっ?  なんで急に私が主任の補佐?  え、ちょっと美波、なにその両手合わせて「南無〜」ってポーズは!  うっわあ、ヤダ、この片眉上げる不敵な笑顔はどこかで見た。しかもつい最近。正直に申告すれば、ほんの数時間前!  なにをそんなに嬉しそうに、え、わ、垂れ目が泣きぼくろで何これどういうこと?   誰か一連のこれらについて説明プリーズ、ついでに距離が近くない!?  ちょっと心臓落ち着いて、もしや不整脈とかっ。 「……どこかで会ったかな?」  ええ、夢で――なんて、言えるかそんなこと!
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