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「どうされましたか」
ため息に乗せた歌声は、突然降ってきた別の声に消された。
慌てて顔を上げれば目に飛び込む正装のアッシュブロンドと、闇色に馴染む帯剣の黒髪の二人の姿。
心臓が止まるほどに驚きながらも、気付かれぬようにそっと足を戻すシャルロット。
彼女が瞬時に判断したところによると、この乱入者は今日の夜会の主催者であるこの屋敷の息子と、その友人と言う名の護衛。
と、いうことは乱入者ではないのか。そうは言っても気分は侵入者だが。
……おい。おいちょっと息子くん?
シャルロットの体調を心配してくれるのはありがたいが、大丈夫って言ったらそれがどうしてじゃあ庭を案内するって話になるんだ。
普通は会場に連れ戻すんじゃないのか。
ああ、バラと噴水、それはさぞかし綺麗だろうが……って、おい。
なんかこいつ、あれ、でも――どこかで。
そういえば、一度会ったことがある。
家族で行った海岸の避暑地、たまたま食事をした店で相席になった。
お姉ちゃんも一緒だったのに何故かシャルロットにばかり視線を向けて……その時は、また比べられているのだと思って特別に気にもかけなかったはず。
覚えていますかと聞かれて小さく頷くシャルロットに、花がほころぶような笑顔を見せる。
戸惑いつつも頬を染める彼女に、さらに満足そうな息子殿。
一度会っただけなのに忘れられなかったなどと言い募られて、もうシャルロットはどう見ても容量オーバーなのに、握った手も攻撃の手も緩める様子はなさそうだ。
確かに、お姉ちゃんガードが厳しくてエスコート役以外の男性とまともに話もしたことなかったけど!
何度もパパを通して面会を申し入れてたとか、そんなことひとつも知らなかったから!
強引な一方でガラス細工に触れるようなエスコート。
何かの決意が込められたその手をじっと見ていたら、うなじのあたりに視線を感じた。
振り返れば、そこにいるのは二人の後から少し間を開けて従う黒髪の護衛騎士。私と目が合って、彼は驚いた顔をした……目が合う?
背後霊状態の私と?
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