1.知らない記憶を辿って

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 目が覚めるとそこは、白い天井だった。 暖かい日差しが部屋を明るくさせ、時より吹く風が白いカーテンを揺らす。 「ここは何処? 私は誰?」  私はどうやら記憶喪失みたいで、自分の名前も何処の誰かさえ分からなかった。 だけど唯一覚えている事、それは大きな赤い鳥居のある神社の前に立っている記憶。 その記憶が私の物なのか、それとも別の誰かの記憶なのか、今の私には分からなかった。 だけど、その記憶は唯一の救いでもあったと思う。 「大きな赤い鳥居(あの場所)に行きたい」  私はそんな衝動に駆られた、と言うよりそれしか今はなかった。 あの場所に行けば何か分かるかもしれない、そんな気さえした。  私はベッドの横にあった鞄から簡単に着れそうな服を取り出し、病衣(びょうい)から白色のポロシャツと七分丈のジーパンに着替えた。 最後に肩まで伸びた髪を(まと)め、少しつばの長いキャップ帽を被って病室をでた。  出てすぐの表札には、立花 結依(たちばな ゆい)と書いてあった。 多分私の名前なんだと思う。 そんな事を思いながら、病院の非常口から外に出た。出た先には芝生が拡がっていて、その先にバスが停車していた。 「よし、あれに乗ろう」  私は駆け足でバスに乗り込んだ。 バスの入口で運転手の人にカードはあるかと聞かれたのでポーチからそれらしき物を見せた。 すると運転手さんは私に笑顔を見せて、好きな席に座るように促された。  私は真ん中の席の窓側に座り発車するまで待っていた。 その間、特に人が乗ってくる様子もなく直ぐに発車した。 「今日は誰かのお見舞いかい?」  突然バスの運転手に声をかけられ、少しびっくりした。 「うん、お母さんのお見舞いに」  私はとっさに嘘をついた。 嘘をつかなければ、あの病室に戻されてしまうと思ったから。 「そうか〜」  そう言ってバスの運転手さんは、黙り込みながらも運転の方に意識を完全に戻した。 私としてはもう少しお話をしたかったけど。  暫く走ると町の入口付近まで来た。 バスのアナウンスでは、赤鳥町入口(あかとりまちいりぐち)と繰り返し流れた。 赤鳥町という町の名前に、聞き覚えはなかったものの、なんだか戻ってきたって感じがした。  停留所をいくつか経由して、漸く赤鳥町駅北口に到着した。 バスを後にした私は駅内に入り、そこからどこの駅に向かおうか、各駅の案内板を見ることにした。 そこで何となく気になる駅名を見つけた。 「赤河駅(せきかわ)」という駅で、ここの赤鳥町駅から6つ目の駅になる。 私はバスで使ったカードをポーチから取り出し、改札口でタッチして改札内に入った。 ホームで電車を待っていると電車が来た。  車内はかなり空いていて、殆ど人は乗っていなかった。 席に座り暫く揺られていること30分、漸く目的の駅に到着した。 電車を降り改札を出て外に出ると、そこには大きな赤い鳥居が佇んでいた。 「あっ! これだ!」  偶々、目に付いた駅がまさか私の行きたいと思った場所のある駅だったとは思いさなかった。 目の前の信号の着いた横断歩道を渡ろうとした次の瞬間、私は突然意識を失った。
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