4.蒼空の願い

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 「ねぇお母さん、結衣あの風船欲しい!」  反対側の車道を挟んだ歩道の先に風船を配るピエロの姿があった。 「えっ!? 結衣、待ちなさい! 結衣!」  急に走り出した幼い私は信号のない道路を飛び出し……。 「危ない!」  ドンっと鈍い音と共に小さな私はお母さんに抱えられていた。 「ねぇっねぇお母さん? ねぇって」 「……」  お母さんは、小さな私を守る為に大型トラックに引かれた。 私はお母さんの胸の中で守られ擦り傷だけで済んでいた。 トラックの運転手は、トラックを走らせ逃走。 小さな私はパニックを起こし気を失った。 なんなのこれ。  次に映像が流れてきたのは、誰かのお葬式だった。 写真にはお母さんの姿。 お姉ちゃんの隣に座っているのが、お父さんなのだろう。 あっ朝陽さんのお母さんもいる。 でも、何か様子がおかしい……あっ何かお父さんが怒鳴ってる。  更に映像が変わり、今度は神社の中の、境内に移った。 境内でピンクのボールで遊ぶ2人の女の子、私とお姉ちゃん。 ボールを取り損ねた小さな私は、大きな赤い鳥居の方へ走ってボールを追いかける。 そして、赤い鳥居を抜けて道路に出た瞬間……私は鳥居の方に突き飛ばされた。 ドンっと鈍い音と共に、スーツを着た成年が倒れていた。 小さな私は、彼に近づく。 「お兄ちゃん……」 「結衣ちゃん、大丈夫? 怪我してない?」 「ご、めん、なさい」  小さな私は泣いていた。 「大丈夫だよ」  声にならない声で、彼は……いや彩夏お兄ちゃんは言ってくれた。 そして母の時と同じ様に、小さな私は叫び気を失った。 「そして結衣、君は記憶を自ら封印した」 「蒼空なの?!」 「そして、時より発作を起こしては入退院を繰り返し完全に記憶を封印し目覚めたのがこの夏だ」 「何で教えてどうして、これを私に見せるの!」  それでも答えようとしない蒼空。 「そして結衣の記憶を解放する最後の鍵が開かれた時、全てを受け入れるんだ! 眠り姫はもう終わり」 「記憶の扉の鍵……」  私は理解出来ずにいたけど、それでも一方的に話を進める蒼空。 「俺にはもう時間が無い、最後の鍵は結衣が自分で開けなくてはいけない! これはあくまで俺が見た光景、結衣の記憶ではないだから今の映像の中にヒントが隠されてる! だから……」  私は飛び起きた。 目元が熱い……泣いていたのかも。 隣を見ると難しい顔をした蒼空が、夕焼けの空を見上げていた。 「ねぇ蒼空さっきのって……」 「ん? 何の話だ?」 「なんでもない」 「そうか」 「私帰るね」  私はそう言って、駆け足で神社を後にした。 さっきのは、もしかして蒼空の心の声が私の夢と共鳴したのかな? それにしても、さっきの夢って……あれ?何だっけ? 忘れちゃった……でも、何か大切な物を探さないといけない気がするんだよね。 なんだろ。 ひぐらしが鳴く、夏の終わりを感じながら私は家に帰った。
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