赤い起き上がりこぼし

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   ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。  またしばらくして、まみが起きた。  また私の顔を見てへにゃあっと笑う。  そして、しょうこりもなく、また枠につかまろうとする。  知らんもんね、何があっても知らんよ。    ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。  まみはつかまって、枠をがたがたと揺らしていた。  あんなことしてて、枠の留め金はずれたらどうするん。  下は、固いコンクリートなんやでね。  頭割れて死んでしまうよ。  知らんでね。  私は見ててって言われたから見てるだけやもん。    ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。  留め金を一つはずしておこうか……。  もう一つは勝手にはずれるかもしれん。  はずれんでも、頭から落っこちるかもしれん。  私はすーっと前に、手を伸ばした。  ずっと聞こえていた織機の音が、一瞬聞こえなくなった。  足を踏み出した弾みに、起き上がりこぼしが、ごろんと転がった。  赤いずきんの中の目が、こちらを見た。  下から逆さまに見られているせいか、ぎろりとにらまれたように思った。  とたんに、うるさいほどの織機の音がよみがえった。 「まみちゃん! 落ちんでよかったあ! まみちゃん!」  まみはまた泣いて、赤い口を大きく開けた。  それから、どうしたのかわからない。  記憶はそこで途絶えている。  もしかしたら、祖母が仕事を辞めて、家で面倒をみるようになったのかもしれない。  次の年には、村に保育所ができて、私はそこにまみと通った。    母や祖父が迎えに来ると、まみは黙ってかばんを肩にかけて走ってきた。  そして、私と手をつなぐと、へにゃあと笑うのだった。  私はずっと、まみと仲が良かった。  それは、あの一瞬でも芽生えた私の「殺意」をどうにかして、償いたかったのかもしれない。  まみはずっと、あの起き上がりこぼしが苦手だった。  あのクリッとした目がきらいだったそうだ。  もう、どこにあるのかさえもわからない。  けれど、私の記憶にはずっと残っている。  あの、赤い起き上がりこぼしの不気味な目。  そして、地獄の入り口のようだった、あのまみの口の中を。
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