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しばらく絵本を読んでいると、まみが起きた。
まみはきょろきょろと見回すと、私を見つけてへにゃあっと笑う。
くるりと寝返りをうつと、私の方へやってくる。
私はどうしていいのかわからず、起き上がりこぼしに相手をさせた。
ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。
起き上がりこぼしは、クリっとした目をしている。
揺らすとガランガランと音がする。
そのうち、まみは泣き始めた。
お腹がすいたのかな。おむつかな。それとも、ちがうのかな。
泣き止まない。赤い口の中は、洞窟の入り口のようだ。
恐ろしくなって、助けを呼ぶ。
「おかあちゃーん」
ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。
向こうにいた母が気づき、汗をふきながら駆け寄ってきた。
「あら、どうしたん。まみちゃん、おしっこなんかな」
母が手早く脱がせてみると、案の定おむつは濡れていた。
おむつを替えると気持ちよくなったのか、まみはまたへにゃあっと笑う。
歯が生えそろっていない、口の中が見える。
「もし泣いて、お母ちゃんも聞こえんようやったら、おむつ見てやっての」
母はまた、仕事に戻った。
ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。
できんもん、そんなこと。
まみは、私のことを何だと思っているのかわからない。
私に、言葉か何か、ひとことふたこと言う。
何を言っているのかわからない。
でも、起き上がりこぼしを見てもへにゃあっとは笑わない。
ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。
そのうち、まみがベッドの枠につかまって立ち上がった。
あぶない! 頭から下に落ちてしまう!
私は思わず、まみの腰あたりを抱えて引っ張った。
勢い余って、二人して後ろに倒れ込んだ。
私は、うしろの枠に後頭部をぶつけた。
まみはびっくりして泣き出した。
ガッチャ ガッチャ ガッチャ……。
まみが大泣きしているので、母がやってきた。
「あら、どうした? 何泣いてるん?」
まみは、母にしがみつくようにして泣く。
泣くと体温が上がるのか、汗までかいている。
「みきちゃん、何かまみちゃんにしたんでないの?」
「せんよ。なあもせんよ」
「お姉ちゃんなんやでね、ちゃんと見ててよ」
母は、泣き疲れて眠ったまみを布団に寝かせると、また仕事に戻った。
私は一人で、頭の後ろをさすった。
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