一、新しい玩具

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 どうやら、本当にここは江戸時代末期、幕末の京都らしい……。 一晩中街を練り歩き、琴子は朝日と共にその結論に辿り着いた。 財布もなければスマホもない。宿を取ることすら出来ずに歩き続けた体は、既に疲弊し切っていた。ぐう、と空虚な音を立てた腹部をさすり、琴子はため息をついた。 立ったまま眠れそうな程の睡魔は去らないし、空腹も堪える。だが、それよりも堪えるのは。  着物を着て髪を纏めた女性が、店の看板を持って表へ出てきた。団子屋だ。開店準備をしているらしきその黒い双眸が、琴子の前で止まった。 染めてもいないのに薄茶に色付いた髪、Tシャツに膝丈のフレアのスカート。 明らかに街で浮いたその姿を我を忘れたように凝視し、何か良からぬ物を見てしまったかのように頬を染めて顔ごと視線を逸らしてしまった。 中にはあり得ないとでも言いたげな目をちらちら向けて来る年配の女性もいたりで、ひどく居心地が悪い。体を縮めるようにしてこそこそと道の端を進み、琴子はハッとした。  死屍累々を築き上げる道。乾いて地面に壁にこびりついた血痕。野次馬たちが顔をしかめながらも様子を見ている建物。 昨夜、琴子が目を覚ました場所だ。 そう気付いた瞬間、弾かれたように駆け出していた。
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