66人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
「な、なんで呑気にお団子食べてるんですか!」
「これ、すごく美味しいんですよ。琴子さんもいかがです」
「美味しそうだけど!沖田さんさっきまで襲われてて……!」
「なんてことありませんよ、あれくらい」
沖田はあくまでもけろりとしている。口元には随分見慣れてきた柔和な笑みが刻まれていて、とても強がりには見えない。
「これはどういう料簡だ」
低く唸るような声が降ってきたと思うと、頭を何者かに鷲掴みにされた。声でわかる。土方だ。琴子は息を呑んだ。
「わ、わかんないんです。本当にさっきまで沖田さん」
「あらら、土方さんに山崎さんまで。どうしたんです、お二人とも」
怯える琴子の言葉を遮り、沖田は一層呑気な声を出した。聞いておきながら、団子を頬張る。
ため息が聞こえ、頭が解放された。山崎の苦笑いも少し遠くから聞こえる。
「私、沖田さんが危ないと思って、屯所に人を呼びに行ったんですけど」
「たかが四人に大袈裟です」
「四対一なんて危ないでしょ!」
「そこで命を落としたらそういう運なんですよ」
琴子は言葉を失った。
刀を提げた男が跋扈する世界は、命なんてその程度の物なのだろうか。死んでもまぁ仕方ないよね、で済まされてしまうのだろうか。
「でも、心配してくれたんですね。ありがとう」
顔に出ていたのかもしれない。沖田は笑った。笑ったが……その顔は、どことなく翳って見えた。
最初のコメントを投稿しよう!