二、副長の犬、山崎

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「な、なんで呑気にお団子食べてるんですか!」 「これ、すごく美味しいんですよ。琴子さんもいかがです」 「美味しそうだけど!沖田さんさっきまで襲われてて……!」 「なんてことありませんよ、あれくらい」  沖田はあくまでもけろりとしている。口元には随分見慣れてきた柔和な笑みが刻まれていて、とても強がりには見えない。 「これはどういう料簡だ」  低く唸るような声が降ってきたと思うと、頭を何者かに鷲掴みにされた。声でわかる。土方だ。琴子は息を呑んだ。 「わ、わかんないんです。本当にさっきまで沖田さん」 「あらら、土方さんに山崎さんまで。どうしたんです、お二人とも」  怯える琴子の言葉を遮り、沖田は一層呑気な声を出した。聞いておきながら、団子を頬張る。 ため息が聞こえ、頭が解放された。山崎の苦笑いも少し遠くから聞こえる。 「私、沖田さんが危ないと思って、屯所に人を呼びに行ったんですけど」 「たかが四人に大袈裟です」 「四対一なんて危ないでしょ!」 「そこで命を落としたらそういう運なんですよ」  琴子は言葉を失った。 刀を提げた男が跋扈する世界は、命なんてその程度の物なのだろうか。死んでもまぁ仕方ないよね、で済まされてしまうのだろうか。 「でも、心配してくれたんですね。ありがとう」  顔に出ていたのかもしれない。沖田は笑った。笑ったが……その顔は、どことなく翳って見えた。
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