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じりじりと灼熱の日差しがうなじを焼く。脳天も焼けるように熱い。何よりも、こめかみから額から伝ってくる汗がひどく不快だ。
琴子は箒を握る手を止め、天を仰いだ。痛いほどの眩しさに目を細める。
何だってこんな、人がバッタバッタ倒れて救急車が往来を行き来するような暑い日に、私は庭掃除なんかさせられているんだろう。
ため息をつき、また手を動かし始める。手入れされた庭はザ・日本という感じで、盆栽が飾られていたりちょっとした池があったり、苔むした岩灯籠までもが鎮座している。
夏休み恒例の祖母の家への宿泊。その二日目の真っ昼間。
彼女は言いつけを破り、進入禁止の蔵を覗いてしまったのだ。
あまつさえ、慣れない暗がりの中で大切に厳重に保管されていた日本刀を蹴り飛ばしてしまい、鞘にひびを入れてしまった。
普段は温厚な人が怒ると怖いというのは本当らしい……。怒りのあまり青白くなった祖母の顔を思い出して身震いしながら、琴子はもう二度と祖母を怒らせまいと決意した。
掃き掃除はこれくらいでいいか、と一人頷く。少ない木の葉や細かいゴミを集めてちりとりに受け、そばにあった岩に腰を下ろした。
池を囲うように丸く並べられた楕円に近い岩。その上で身をよじって池を覗き込んでみる。
静かな水面に、自分の姿が映り込んだ。ポニーテールの後れ毛も耳の前に垂らした髪も、ぺったりと濡れて首や頬に貼り付いている。
あまりにも汗だくな姿に苦笑しつつ、前髪を整え、伸びをした。暑いと欠伸が出るのは何故だろう、なんて考えていると、突然ぐらりと視界が揺れた。咄嗟に額を押さえる。
目眩。熱中症だろうか。
家に入ろうと立ち上がる。が、その体がふわりといびつに傾いだ。
そう思ったのも束の間。彼女の体はバランスを失って、後ろへと倒れていった。
後ろは池だ────、
見開いた目に映った青空を最後に、意識は途切れた。
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