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人垣から少し離れた場所に、浮世離れした後ろ姿が佇んでいた。
陽に透けて蜂蜜色になる髪を、丁寧に一つに束ねた小倉色の袴姿の男。ほっそりとしているのが、和服の上からでも分かる。防具を付けていない今は、背中だけでも昨夜より一段と美しく見えた。
琴子は側に寄り、昨夜とは逆に、彼の袖を引く。
ぱっと髪を翻して振り返った彼、沖田総司が一瞬の内に刀の柄に手を掛けたのを見、咄嗟に身を引いた。
「あっあの、沖田さん、ですよね。あの、私、昨日助けてもらった……」
あっ、という顔をした沖田は、強張った顔を綻ばせた。
「あなたでしたか。どうしたんです、こんな朝早く」
血刀を引っさげていた時とはまるで違う、柔和な笑みに、無意識に胸をなでおろす。
「沖田さんは新撰組なんですよね?」
意気込んで問うと、沖田は頷きつつ目を瞬いた。
新撰組というと、京都の治安を護るために結成した部隊だと聞いている。
ならば。琴子は真剣な声色で続けた。
「ちょっと私、困ってるんです。助けてもらえませんか」
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