あの夏の出来事

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あの夏の出来事

 ハッと意識を取り戻すと、俺は自分の部屋にあるベッドの上で横になっていた。外は薄暗い。どうやら、昼寝をしてしまったようだ。それにしても、やけに地味で現実的で長い夢を見ていた……。  枕元に置いてあったスマホを取り上げ、ロックを解除する。画面には、「二○十三年八月九日」と表示されていた。 (……あれ? 今日って……八月四日じゃなかったっけ……?)  ……勘違いか? 夏休みに入ってから、曜日感覚も日付感覚も完全に麻痺しているな、俺。むちゃくちゃ損した気分だよ。  はぁー……と、深いため息が出た。夢の中で呑んだ酒は全然美味しくなかったし、食った弁当の味もイマイチだったし、起きたらやたらと日が経ってる気はするし……。昼寝するとろくなことがない。  俺は再び寝転んで、仰向けになったままスマホをタップした。その時、メールボックスに赤丸で「1」と表示されているのが目に入る。 (……メール? 珍しいな)  俺はいつもSNSを使ってやりとりをするので、メールの着信なんて滅多にない。あるとしても、大体が迷惑メールだ。多分これもその類だろうと思うが、一応見るだけ見ておくことにする。 『千笑です! 返事遅くなっちってごめんね! 登録お願い!』  ……誰だよ千笑って。やっぱ迷惑メールじゃねーか。これあれだろ、返信したら出会い系サイトとかに誘導されて、むちゃくちゃ請求されるやつだろ。……そんな手に引っかかるかっての。無視無視。  俺はメールをゴミ箱へ移し、スマホを放り投げた。その後、ゲームや漫画で適当にヒマを潰した俺は、何気なしに再びスマホを手に取ってみる。……そこにはまた、着信の表示があった。 『トモくん? メール届いてるかな? 見たら、返信ください』  ……トモくん……って、俺のことか? 確かに俺の名前は知宏だけど、馴れ馴れしくすれば引っかかるってもんじゃないぞ。逆に不愉快だっつーの。俺は、すぐにメールを削除した。  ……が、それからというもの、同じアドレスからやたらとメールが届くようになった。 『お願いだから、届いてたら返信してください』 『何度もごめんなさい。でも、トモくんから返信来ないと辛くて』 『悲しいです。悲しくて死にそうです。なんで無視するん?』 『あたしのこと、もう好きじゃないん? そうならそうって言って』 『返信くんないと、今からあたし……会いに行っちゃうから』  ……しつこい。てこでも俺に返信させたいらしい。最近の詐欺って、こんなに手が込んでるのか。ここまで来ると、恐怖すら感じてくる。  俺は友人の聡にこの件を相談した。すると、この手の迷惑メールは一度来たら最後、怒濤の勢いで増えていくという。……実際、聡にも経験があるそうだ。仕方なく、俺はアドレスを変更することにした。  アドレスを変更したらメールは届かなくなったが、今度は見知らぬ番号から電話がかかってくるようになった。何か大切な事柄だったらマズイので、恐る恐る……俺は電話に出てみる。すると…… 『トモくん……だよね? どうして連絡……くんないの……?』  ……相手は可愛らしい声をした女性だった。……つか、あの迷惑メールの当人じゃねーか!! さすがに俺も頭に来て、声を荒げた。 「誰だよお前っ!! しつけーんだよっ!! もう二度とかけんなっ!!」  俺はその電話番号を即行で着信拒否に設定し、履歴からも削除した。……一体、どこから俺の個人情報が漏れたんだ? 最悪過ぎる。  その後、その女が会いに来るようなことはなく、この件は落ち着いた。……高校二年生の夏に見舞われた、腹立たしい出来事だった。
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