最後の贈り物

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2回目にあの現象が起きたのはそれから2年と経たない頃だった。 桃の香りがした。 「ほらほらよく笑ってる笑ってる、コウスケは桃が好きなんだな」 白髪混じりの祖父が赤ん坊の私を抱えて、卓袱(ちゃぶ)台の上の桃の前へと近づけてくれた。 私は桃の香り以上にまだ髪の毛が少しは残る若々しい祖父の顔が珍しくてただただ笑っていた。 「コウちゃん、長いヨダレを垂らして、ほんと桃が好きなんだね」 永遠の別れを告げたはずの祖母が口元を(ぬぐ)ってくれた。 若々しい祖母が私にとってはどこか懐かしくもあった。 ああ、これは完全に赤ん坊の頃に戻ったのだと私が認識した瞬間、目の前には妻の顔が広がっていた。 「コウスケさん、大丈夫?」 心配そうな表情を浮かべた妻がソファーに座る私の顔を(のぞ)き込む。 「温かいものでも飲んで」 妻は私にそう言い残してキッチンへと向かおうとした時、家の電話がデジタル音を響かせた。 「はい、あ、お母さん」 電話に出た妻の声と表情から私は事態が予測できた。 電話を終えた妻は案の定、遠い空の下にある自宅で祖父が静かに息を引き取ったことを私に伝えたのだった。
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