椎木さんの話。

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 今時珍しい、木造の二階建てアパート。築二十年といったところだろうか。無骨な三十代男性である椎木さんには、似合わなくもない。  一階の部屋を選んだのは、外で呑んでべろんべろんに酔っ払っても、最悪は這って帰ってこられるから、という理由らしい。  椎木さんは、会社の先輩だ。  新入社員の教育係として紹介された椎木さんと初めて会ったとき、僕の会社での日々はしばらく、息が詰まるものになるに違いない、と思った。  無表情でちっとも笑わない椎木さんが、最初は怖かったのだ。  だけど、三日も一緒に過ごすと、椎木さんは表情が多少乏しいだけで、特別厳しくも怖くもないことがわかった。  いや、仕事上は厳しい。口調も厳しいが、相談を持ちかければ親身に話を聞いてくれるし、的確にアドバイスもしてくれる。物覚えが決してよくはない僕に呆れもせず、丁寧に作業を教えてくれた。  こうなると、愛想がよくないのも、スラリとした体型と同じく無駄がなくスマートにさえ見えてくるから、不思議である。  僕はあっという間に椎木さんが大好きになって、今はもう、暇な時間があれば、会社外でも食事に行ったりメールのやり取りをしたりしている。ほぼ付き合っているようなものだ。  なぜ僕が、今夜椎木さんの自宅に上がり込んでいるのかというと、別にとうとう一線を越えようと目論んでいるわけではない。
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