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「でも、今年の夏の暑さはやっぱり異常ですよ。年々暑くなっている気がします。このままだと、いつか本当に雨が一滴も降らない年がくるかも」
なんとか椎木さんを論破して、その落ち着き払った顔をしっかり慌てているとわかるくらいに崩してみたいと、僕は鼻の穴をふくらませる。
僕には、サディストの気があるのかもしれない。
今年は、六月にまったく雨が降らなかった。
梅雨入りはいつだ? と、駅の近くに新しくできたカレー屋の開店はいつだ? なんて、出向くのに都合のいい日を確認するようなつもりで眺めていたテレビの天気予報。
だけど、お天気キャスターが宣言をする日はとうとうこなかった。
七月に入ると、気温は連日三十度超え。ダムの貯水量は先日の雨で一時潤ったものの、これ以降雨が降らなければ、干上がる可能性はある。熱中症で病院に搬送される人の数も、今年はすでに記録的なものになっている。
こうなると、僕は例のつぶやきを思い出し、近いうちに日本人どころか全人類が滅びる日がくるのではないか、と震え上がっている現在なのだ。
「確かに暑い。と言うより、熱い。信じられない熱波だ」
温度なんて感じていないサイボーグのような顔で、椎木さんは言った。
「そうなんですよ! 僕は、このままだと狂ってしまうかもしれません」
椎木さんを言い負かしてやろうという気持ちは、同意された嬉しさにあっさり負けて消えてしまった。僕は、同情を誘う娼婦のように、畳の上に転がり込む。独身男性の自宅然と、埃が舞い上がった。
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