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僕に、女王様になれる素質はなかった。どちらかと言うと、強がったところを思いきりハイヒールで踏んづけられ返り討ちにあうことで、快感を覚える、独特な嗜好のお客様の側だ。
「夜もあまりに暑くて眠れないんですよ。エアコンをつけっぱなしにできるほど、経済的な余裕はないし!」
「うちも、寝るときにはエアコンをつけない。喉をやられそうだからな。ひんやりマットに頑張ってもらう」
「それです!」
上体を起こしたときに指を鳴らそうとしたが、寸前でダサさに思い直してやめた。
「僕、その『ひんやりマット』を買おうと考えていて」
「買えばいい」
「そう言うと、話がそこで終わっちゃいます。買いたい気持ちは大いにあるんですけど、その効果を実際に体感してみないと、お金と期待の注ぎ込み損だったら嫌じゃないですか」
『ひんやりマット』とは、冷感素材を使用した敷きパッドだ。マットレスや敷き布団の上に敷いて、その上に寝れば、ひんやりとした触感で夏の寝苦しい夜を快適に過ごせるという、いわゆるお助けアイテムである。
某アパレルメーカーが、自衛隊完全協力のもとに開発したというその商品は、殺人的暑さとも言えるこの夏、空前の大ヒットとなっている。
雨が降ったって、熱帯夜だったら眠れない。眠れないと、結局人間は死ぬ。正直今すぐ手に入れたいところだけど、ただ、少々値が張るのだ。
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