ドレスと一緒に私も売れました

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疑問に思いつつも、誰が聞いているか分からないこの場で問うことは出来ず… 私は、ただ、にっこりと微笑んで、尋輝さんの隣に寄り添っていた。 尋輝さんは、次々に挨拶に現れる人たちににこやかに挨拶を返していく。 しばらくして、スピーチが始まった。 どうやらこの会社の上場20周年の記念式典のようだ。 社長が挨拶をし、次に専務が呼ばれた。 私が尋輝さんの腕から手を離そうとすると、尋輝さんは右手でそれをそっと押さえて、 「行くよ。」 と囁いた。 え? 行くって何? 分からないまま、尋輝さんに連れられてステージに上がらされそうになる。 私は、慌てて尋輝さんの腕から手を外して、後ずさりした。 「ほら、紬もおいで。 今日は一緒にいてくれる約束だろ?」 え? でも、だって、それは… 今度は強引に手を繋がれて、ステージに引っ張り上げられてしまった。 「専務の中谷(なかたに)尋輝(ひろき)です。 いつも当社のために多大なるご厚情を賜り、 誠にありがとうございます。 このたび、この場をお借りしまして、 私事ではございますが、婚約致しました事を ご報告させていただきます。 こちらが、婚約者の(たち)(つむぎ)さんです。 当社共々、若輩者の私たちにも暖かいご指導 ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げ、 簡単ではございますが、挨拶と変えさせて いただきます。 本日は、誠にありがとうございます。」 開いた口が塞がらないとは、まさにこの事。 私は、言葉にならない言葉を発しようと、口を開けたまま、立ち尽くしていた。 尋輝さんが頭を下げたのを見て、慌ててそれに倣うが、頭の中はパニック状態。 何がなんだか、さっぱり分からない。
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