第三十一話 試験前日とマウナの事情

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第三十一話 試験前日とマウナの事情

 夜もそこそこいい時間に街に着きましたがこの時間からですとシャワー浴びて寝るしかないじゃありませんか!  しかし、夕食と言うには遅いですがお口直しの食事はしたいですわね……あのスープ甘すぎますわ。  熊の干物亭に戻って軽い食事でも頼みましょう。  ワタクシ達は熊の干物亭に向かうと…… 「何故この時間にこんなに人がおりますの?」 「わ、わかりません」 「やだ、席開いてないじゃないの」  ベティさんの言う通り席俄然埋まってるという事態に陥っていますわ。  ですが不思議と次にどの席が空くか分かりますわ。 「手前のカウンター付近の席がそろそろ空きますわよ」 「ほんと、よく分かるわね」 「ほんと自分で謎ですわ」  そうこうしてると五分かからずワタクシの指定した席が空きましたわ。  ワタクシ達は空いた席に着くとシェリーさんが注文を取りに来ましたわね 「あら? 今日は皆さん遅いんですね?」 「そうなのよ、シェリーちゃん色々とあったのよぉ」 「お疲れ様です。で、注文は何にします?」  口直しの軽めの食事でいいですわね。  ワタクシ達はシェリーさんに野菜のスープを四人前頼みますわ、そしてこのお店の混み具合に着いて聞いてみましょう。 「しかし、今日は何故こんなに混んでいますの?」 「ああ、私もそれは思ったわね」  ベティさんも疑問に思っていたようですわね、シェリーさんは少し声を潜め 「チヨルカンの隣国のサルジーンの辺境にあった村が何者かに滅ぼされたようなのよ、しかも不思議な事に死体がまったく見つかってないらしいの」 「さ、サルジーンですか。それとこの人数に、な、なんの関係があるんです?」 「それがねこの街の付近でサルジーンの軍服を着た兵士のゾンビが見つかったとかで緊急の調査依頼が出たらしくてね、その帰りの冒険者が少し前の時間帯から来てるのよ。とりあえず注文を通してくるわね、ごゆっくりどうぞ」  そう言ってシェリーさんは奥に消えていきますわ。 「穏やかな話じゃないですわね」 「サルジーンとはどんな国なんです?」  マウナさんはサルジーンについて聞いております、ワタクシも知らない国名が出たので話に耳を傾けますわ。 「サルジーンねぇ、一言でいえば貧乏な小国ね」 「そ、そうですね。土地も痩せてて国民はいつも貧困にあえいでいていつも他国の援助頼りと聞いています」 「なんですのそれ? ダメ国家じゃないですか」 「国王が情けない人物らしいのよねぇ、今の代で一気に国が傾いたそうよ」 「はうぁ!」  マウナさんが謎の精神ダメージを受けておりますわね、おおよそ検討は付きますが…… 「それよりマウナちゃんの事聞かせてもらえるかしら?」  あー、うんやはりそうなりますわよね 「話すのは良いのですが今日は遅いので明日でもよろしいかしら?」  ワタクシはそう提案いたしますわ、これから話すと長くなりそうでしたので。 「そうねぇ、まあそれでいいわよ、アルティアちゃんはどう?」 「は、はい、わたしも明日で構いません」  ベティさんとアルティアさんも明日でも良いという事でしたので、ワタクシ達は今日は軽い食事を取ってから解散する事にいたしました。 「では、明日。ギルドで今日の依頼の報告をしたらお話いたしますわ、マウナさんもそれでよろしくて?」 「わかりました」  こうしてこの日は注文したスープを頂いて各々の家に戻りました。  ――  ――――  翌日。  ワタクシ達はギルド前に集合しております、そしてそこで明日は試験なので流石に依頼はお休みとして準備する日にしようと決めました。 「それでは報告に参りましょう」  ワタクシ達はブレンダさんの所に向かい昨日の盗賊討伐の報告をいたしましたわ証拠の品を提出し依頼は完了となりました。 「いよいよ明日ですね、さて今日は依頼をうけますか?」  ブレンダさんがそう尋ねてきますが先にそのことを決めていたので依頼は断る事としました。 「いいえ、流石に明日ですので今日は準備の日にしようと決めておりましてよ」 「まあ、そうですよねぇ」  ワタクシ達は依頼料を頂きギルドを後にし熊の干物亭に向かいます。  熊の干物亭に着き隅っこのテーブル席に座ると注文を聞きに来たアニタちゃんに紅茶を人数分頼むといよいよマウナさんの事を話す時が来ました。 「マウナさん、お二人には説明しますわよ」 「わかりました」  ワタクシとマウナさんは二人に向き直ります、そしてまずはマウナさんが語りだします。 「私の本当の名前はマウナ・ファーレといいます」 「ファーレ魔王領と言うと、この国のすぐ南に位置する魔王領よねぇ」 「あ、あ。五年くらい前にチヨルカンと戦争してた国ですね」 「はい、私はそこの元領主でもあるファルテ・ファーレの娘です」  マウナさんが魔王の娘と名乗ると二人は黙ってしまいましたわね  仕方ないと言えば仕方ないですわよね。 「ファルテ・ファーレと言えば比較的人間に友好的な魔王だったわねぇ」  ベティさんがそう呟いておりましたベティさんの呟きをワタクシは無視しマウナさんに続いて説明を開始しますわ。 「そしてワタクシがそこのマウナさんに召喚の書で呼ばれ、皆様方でいう所の異世界から呼ばれてこちらに来ましたのよ」 「それは知ってるわよぉ」 「その呼ばれた目的はマウナさんの国を再建する事ですわ」 「お恥ずかしい話ですが私が魔王となってからは国は傾き今のところは大丈夫ですが近いうちにどうにかしなければならない状態だったのです」  アルティアさんがそらそうだよなーって疑問を口にします。 「ちょ、ちょっと待ってく、ください。それと冒険者に、ど、どんな関係があるんですか?」  ワタクシは以前に魔王城で説明した事を簡単に二人にも説明しますわ。 「マウナさんはずっと魔王領で生活しておりやはり人間世界との差異がございますわ、そこで冒険者という形での社会勉強をすることとなりこの街に来ましたのよ」 「な、なぜ人間社会の勉強を? ま、魔王領を建て直すんですよね?」 「それはですね、私自身が人間との交流をもっと増やしていかねばと思ったからです、私達魔族や亜人達だけではいずれ限界が来ると思っています、そこで人間との交流、友好的な関係を結ぶのが最善だと判断したからです」  アルティアさんもその答えに納得したようで頷いておりますね。 「で、では人間と事を構えるとかそういうのではないんですね」  マウナさんは少し寂しそうに微笑み 「一部魔王たちの中にはそのような過激派な人もいますが、私は違います」  マウナさんの顔を見たアルティアさんが慌てて謝罪をしました 「ご、ごめんなさい。どうしても人魔戦争の事があったので魔王と言うとそのイメージが付いてしまって……」 「アレは正直人間に非があると思うのよねぇ」  約二〇〇年前に起きた人と魔王領の戦争ですわね 「どういうことですの?」  ワタクシは詳しくは無いのでベティさんに尋ねます。 「あれはね、今のチヨルカンの大本になった国が勇者召喚に成功し難癖をつけて穏健派だった魔王に喧嘩を吹っ掛けた事が始まりなのよねぇ」 「私の父の友人でもあった魔王カステリオと人間の戦争です」 「「「え? 友人!?」」」  カステリオは実はマウナさんのお父様の友人だった? 世界は狭いですわねぇ…… 「そして五年前のチヨルカンとファーレ魔王領の戦争……チヨルカン、クソ国家ですわね」 「まあ、あそこは黒い噂がたえないのよねぇ」  チヨルカンは今後も警戒が必要ですわね。 「少し話が脱線しましたわね、マウナさんとワタクシが冒険者になった理由ですわね」  そう言ってワタクシは話を戻します。 「えぇ、そうね。そこが聞きたいわね」 「先ほども言いましたがマウナさんとワタクシの社会勉強の一環というのともう一つは国の再建を手伝ってくれる方とのつながりを作るためでもありますの」 「なるほどねぇ、確かに冒険者をやってれば有力者の依頼も出てくるわねぇ」 「ムーロさんや大工の村の方々に会えたのは僥倖でしたわ。そしてベティさんやアルティアさんとの出会いも良きことだとワタクシ思っておりますの」 「いやーん、照れちゃうわね」 「わ、わたしも二人と出会えてよかったと思っています」  ワタクシとマウナさんは頷き合います、これはワタクシが言う事ではありませんのよね、あとベティさんが悶える姿は正直モイキーですわ。 「ベティさん、アルティアさん。私と共にファーレ魔王領の再建に力を貸してください」  マウナさんは二人に深々と頭を下げます。 「ワタクシからもお願いしますわ、冒険者仲間だけではなくマウナさんの国のため力を貸していただきたいのですわ」 「ただ無理強いは出来ません、嫌であれば断っていただいてもかまいません」  ワタクシとマウナさんのお願いに二人は考え込んでしまいました、無理もありませんわね、ワタクシだって最初マウナさんに頼まれたときはとまどいましたもの。 「わ、わたしに何ができるのでしょうか? 回復魔法と薬の知識が有るだけで凄いことができるわけではありませんし」 「そうねぇ、お姉さんもただの冒険者よ」  二人の呟きを聞いてうなだれてしまうマウナさん、ですがワタクシは違いますわよ。 「そうですよね……冒険者仲間としてならまだしも」  マウナさんがそう言ったことにワタクシ異議を唱えますわ。 「あら、そうかしら? アルティアさんの薬学や魔法の知識はこれから国を再建するためには重要な事ですわよ、病院や治療院は必須になりますものそのための人材育成などに大きく貢献していただけると思いますわ」  ワタクシの言葉を聞きアルティアさんはなるほどと言う顔をいたします。 「ベティさんにしてもそうですわ、貴方の防衛術や冒険者で培った知識が役に立たないわけがございませんわ。冒険者パーティーとしての戦闘の知識などは国を造るにおいて重要になってきますわ、街の警備や警邏活動にきっと役立つと思っておりますわ」 「なるほどねぇ、知識の転用かしら? 貴女本当に凄いわねよくポンポンと思いつくわね」  ワタクシは二人に微笑みかけて続けますわ。 「ワタクシはお二人を高く評価しておりますの。アルティアさんは容姿も問題なく完璧ですわ、ベティさんもオカマでマッチョで筋肉モリモリの変態ですが先ほども申しましたようにその経験はとても素晴らしいと思っておりますの」 「お姉さんの事ボロクソ言うわね……」  ワタクシも二人に向かって深々と頭を下げますわ、この二人には今後も力になってほしいと思っております。 「ワタクシとマウナさんを助けてくださいまし、ワタクシからもお願いしますわ」  二人はワタクシとマウナさんを交互に見ると 「わかったわよ、あなた達が悪い人じゃないのは今までで十分に理解してるつもりよ。いいわ、私でいいならこれからもよろしくね」 「わ、わたしもお二人とこれからも一緒にいたいと思います、こちらこそよろしく、お、お願いします」  二人の言葉を聞いたマウナさんの目から涙が零れ落ちます。  ワタクシも二人の言葉とマウナさんの涙に少し来るものがありましたわ 「あ、ありがとうご……ざ……いま……す」 「あらあら、マウナちゃん可愛い顔が台無しよ」  ベティさんが優しい顔でマウナさんの頭をなでております……うらやましいですわね。  こうして、ワタクシとマウナさんは改めて心強い味方の協力を得ることが出来ましたわ。  この後は自由行動としました、マウナさんは今日貰った報酬で携帯食料を買ってセルカド達の所に向かいました。  ワタクシも準備をするためにアルティアさんとポーション等の準備に向かいベティさんはダンジョンで使う道具を買いに別行動となり本日はそのまま解散としました。  明日はいよいよ試験当日ですわね!
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