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レッドな激情 Sentence.1
フード付きの赤い羽織を肩にかけている少女は何処にでもいる可愛らしい子。お洒落に羽織の裾や袖にはレースで飾り付けし、淡いオレンジ色のワンピースにはリボンが沢山ついている。
どこからどう見て普通の女の子。
その少女は右手に花を一杯入れた籠を持ち、浮かれた表情で森を歩いている。
今日は特別な日。
おばあちゃんの誕生日だから沢山のお花をあげましょう。お花に囲まれていれば悲しいこと、寂しいことなんて忘れてしまう。
これがあどけない少女が出来る、おばあちゃんを幸せにする方法。
あげるのを楽しみにしている少女の前に灰色の髪を持つ木こりが現れた。彼はたまたま森の中を一人で歩く少女を見かけ、声を掛けてきた。
彼はこの森に恐ろしい人食い狼がいることを伝える。
「あら、オオカミさん? 大丈夫よ。すぐそこのおばあさんの家に行くだけだから」
すぐそこの家。
木こりはそんなところに家があるのか、と疑問に思ったが少女の純粋さにそれを鵜呑みにした。
先を急いでいるのか少女は「ご機嫌よ」と上品に挨拶をして、そのまま森に消えた。木こりはその後ろ姿を見ながら、地面に赤い果実が落ちているのに気が付いた。
どうやら少女の籠から零れ落ちたらしい。
🐺 🐺 🐺 🐺
気が付いたら日が暮れ始めていた。
茜色が射す森の中、古びた一軒家が見えた。あれが少女のおばあちゃんの家。
ノックもせずに中へ入るとリビング脇にある大きなベッドに白髪頭のおばあちゃんが寝ていた。決して痩せ細っている部類には入らない図体の大きいおばあちゃんは、少女が帰ってきたのに気が付き、体を起こした。
少女が手伝おうと近寄ると——
「おまえしゃんは、わしゃを殺す気かぁ!」
突然怒鳴り声を上げたおばあちゃんはその大きな手で少女の頬を叩いた。所謂虐待だ。
床に尻餅を付いた少女は叩かれた頬を抑え、満面の笑みを浮かべた。
その笑顔を見たおばあちゃんは歪んでいる、そう嫌悪の目を向けた。
その気持ちを知ってかどうかはわからないが、少女は嬉しそうに籠から花と赤い果実を取り出した。
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