レッドな激情 Sentence.1

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「ほら、見て。今日はおばあちゃんの誕生日だから採ってきたの」  それらを持ってさらに近づく。  ただの花と果実。それにも関わらずおばあちゃんはベッドに立てかけてある杖を取り、乱暴に振り回した。少女を遠ざけるためにしているのだろうが、意味はない。  少女は近づく。  例え杖が頭を強打し、血が伝い落ちようとも歩みを止めない。 「ほうらぁ」  花をおばあちゃんの上にばら撒く。 「あ、あああ……」  舞い落ちる花はベッドを彩り、まるで送別式のような光景だった。  だが、その花粉がおばあちゃんの目や口に入る。そして、 「ぐがほぉ、がはぁ」  大量の血をベッドに吐きながら絶命した。  寝ていると思った少女はおばあちゃんの開け放たれた口に向かって、果実を絞る。そして残った身は口の中に押し込むと、顎と頭の天辺を持ち、咀嚼させる。  燦爛と輝く少女の両目。 「な、何をやっているんだ。そ、それは猛毒の花と猛毒の果実だぞ」  少女が振り返るとそこには先程森で出会った木こりがいた。恐怖に顔を引き攣らせながら少女の持つそれに指を差し向ける。  部屋に撒き散らされたその花はサフリンという猛毒の花だった。その花の花粉が目や口に入るだけで人は一瞬で死んでしまうという。  さらに果実もリンゴに似た猛毒性のフォロンという。 「え、狼さん来ていたの? 見て、これが私の大好きなおばあちゃんなの。気持ちよさそうに寝ているでしょ」  狼——そう呼ばれた木こりは身の危険を感じ、人の姿を解除する。見る見るうちに変わる姿は人と同じ背丈の獰猛な狼だった。  彼は最初おばあちゃんを食べた上、次に少女を食べる予定であった。だが、おばあちゃんの警戒心が強く、中々近づけないでいた。  計画は狂ったが、食べることに変わりはない。  戸惑うことなく飛び掛かる狼。  歪な笑みを浮かべる少女はどこからか取り出した巨大な鋏を構える。  二人は互いに殺そうとする。
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