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うぉおおおおーん。
狼にも近い遠吠えが森の奥から聞こえてきました。
騎士は一気に蒼褪め、身体中の震えが止まらなくなりました。辛うじて足は動くものの、歯は噛み合わず、ガチガチと音を立てています。
『我ガ森ニイイ餌ガ迷イ込ンダ。我ガ空腹ヲ満タスタメニハ丁度イイ』
森中に反響する悍ましい声は近くで舌なめずりをしているような気がしました。
光源のカンテラを茂みの方に向けるが、カンテラの光だけでは森の奥まで照らせません。
いよいよ旅人は動けなくなりました。
ザッ——茂みを掻き分ける音と共に、それは近づいてきます。
恐怖のあまりに動けなくなってしまった旅人は手に持っていたカンテラを落としてしまいました。その火は瞬く間に近くの木々に燃え移りました。
しかしそのお陰で森は明るくなりました。
焔が照らす森の中、それは立っていました。
そこには先程訪れた家で出会ったヘンゼルが、子供とは思えないほどの悪魔の形相で睨みつけていました。
『オ前ハ、ワガ森ヲ燃ヤシタ』
低くくぐもった声は先程聞こえてきた悍ましい声に似ていました。
騎士は震えながらも剣を鞘から抜き、へっぴり腰で剣を構えます。
『兄様、アレハ形ダケノ騎士ノヨウデス。実ニ滑稽デス』
ヘンゼルの後ろから妹のグレーテルが近づいてきました。その顔は騎士を嘲笑うように歪んでいます。
そして、二人はケタケタと笑い始めました。
『嗚呼。我ガ愛シキ妹ヨ。見タマエ、アノ愚カシイ人間ヲ』
『兄様。口腔ノ中ニ収メルホドノ人間デショウカ』
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