泣き虫人形のピエレット Sentence.1

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泣き虫人形のピエレット Sentence.1

 人形劇が盛んな町の一角に凄腕の人形技師がいました。  木材や陶磁器、岩などの様々な素材で人形を作ることが出来るその腕前は町一番でした。その素晴らしい精密さと技術に多くの人が買いに来るほどです。  そんな人形技師の元にある日、旅の人形劇団が特別な人形を作って欲しいと依頼が舞い込んできました。 今から一週間後にこの町で行う人形劇で使う人形を作って欲しいとのことでした。その人形劇が丁度劇団の結成十年という節目であり、その日に相応しい特別な人形を使いたいと。  作るにあたって人形技師はストーリーを知る必要があります。  素晴らしい人形を作るには物語を知らねばなりません。物語があるからこそ、人形達は舞台で輝くのです。  団長は強く頷くと、その内容を話しました。  🐋 🐋 🐋 🐋  小さな村に足の不自由なおじいさんが独りで暮らしていました。  そのおじいさんは後生大事に持っている人形がありました。先立たれた息子が最後にくれたのがこの人形であり、形見でもありました。  しかしおじいさんは寿命も尽きようとしていました。  最後に、最後に息子に会いたいと思いました。  どこからともなく現れた妖精はおじいさんの人形に魔法を掛けました。  すると人形は命を吹き込まれたように動きはじめました。  🐋 🐋 🐋 🐋  今回人形技師が作るのは物語の重要人物である「命を吹き込まれた人形」でした。  魂——人形に「宿っている」という表現をしなければなりません。より生きた人間に近い口や目の動き、質感などを再現すると言う難易度の高い依頼でした。  人形技師は早速町へ出かけ、適切な材料を探しました。  生きている人形なら柔らかく、透明な質感を引き出す素材です。木材や石材などではなく、粘土でもありません。そんな都合のいい素材などそう簡単に見つかるはずもあるはずもないのです。  途方に暮れる人形技師は町の裏路地に店を構える古本屋の前で足を止めました。店先には埃が被った古い本達が積み上がり、その中でも珍しい牛皮の表紙の本が目に留まりました。
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