X月X 日

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X月X 日

隣の女は、もう居ない。 夜9時。 パタン。 もう、癖になってしまっている。 僕は、読みかけの本を閉じて傍らに置いた。 し……ん。 静かになった壁の向こう。 『ありがとう』 あの時、女は確かに僕にそういった。 キラキラと、はちきれそうな笑顔を向けて。 僕も、他人(ひと)とちゃんと喋れた。 僕が、感謝の言葉をもらえた。 これまでなら、『おめでとう』なんてつまらない、月並みな言葉で喜ぶ女を、まさに『お目出度いね』だなんて、皮肉を言って嫌われたろうに。 もう僕のプライドはズタズタだ。 何故ならば、 その時僕は、 “嬉しい”なんて感じてしまったんだから。 その瞬間、 たまらなく人恋しいと感じてる自分を、でも上手く喋れないことに劣等感を抱き続け、殻に閉じ籠っていたことを認めてしまったから。 …僕にも、出来るだろうか。 (きみ)のように、 喜んで、泣いて喚いて落ち込んで。 時に天まで舞い上がり、かと思ったら、地のどん底まで落とされて。 また這い上がり、叫んで笑って。 その先に、あのキラキラした微笑みを、見つけることが出きるだろうか。 とりあえず、 明日、学校いこ。 (おわり)
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