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しばらくの間、二人で泣いていた。
「あの子はスキーが大好きだった。学校の作文でも、将来の夢はアルペンの選手だって書いていたの。ジュニアの大会では、何回か優勝もしていてね」
空を見ながら、アルペンの選手になりたかったと過去形で話した秀真。その夢は絶対に叶わないことを知っていたのだ。
「あなたが会った秀真が、本当は五年前に亡くなっていたなんて話は信じてもらえないとは思う。でも、あなたが何も知らずに帰ってしまったら、秀真のことを一生負い目に感じただろうし、多分二度とスキーはやらないでしょう?」
お母さんの言うとおりだった。
「信じる信じないはあなたが決めることだと思う。だけどお願い。秀真が大好きだったスキーはやめないで。秀真も同じ気持ちのはずよ」
由羽は決めた。秀真に恥ずかしい生き方は見せない。
姿勢を正して告げる。
「私、アルペンの選手になる。秀真君みたいになれるか分からないけれど、絶対に優勝する」
「ありがとう。でも、無理はしないでね」
「大丈夫です。でも、今度秀真君に会った時にちゃんと報告出来るように頑張ります」
「分かった。それなら一つお願いがあるの」
「お願い?」
「秀真のウェア、あなたに持っていて欲しいの。秀真を一緒に連れて行ってくれないかしら」
それは、由羽がお願いしようとしていたことだった。
「大切にします」
由羽はウェアを受け取り、ぎゅっと抱きしめた。
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