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「そろそろ時間だ。ウォームアップを始めよう」  コーチの仁木に促され、由羽は羽織っていたスキーウェアを脱いだ。元々の鮮やかな赤は色褪せ、あちこち擦り切れてはいるが、由羽にとっては大切な宝物だ。スキーウェアの下は、ピッタリとした真っ赤なレーシングスーツ。  スキーウェアを仁木に預けると、『秀真君、行くよ!』心の中で呟く。点火された闘争心が燃え上がるのを自覚する。  由羽は、全日本スキー選手権アルペン回転女子、U-18クラスにエントリーしていた。 競技を始めて五年に過ぎないが、今日の由羽は神懸かった滑りで、一本目は四位につけている。二本目のタイムしだいだか、上手くまとめれば全日本で初めての表彰台に登れる可能性は十分にある。  ストレッチをしながら、由羽は競技を始めるきっかけをくれた少年を想う。彼のためにも、何とか表彰台に登ってみせる。  
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