人ごみに彷徨う

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 七海は幼い頃から人ごみの中を一人で歩く事を禁じられていた。    しかし二十歳を過ぎて、七海は祖父母の目を盗んで正に今、人ごみの中を彷徨(さまよ)っている。不慣れな雑踏の中を危なげに歩く七海の前を、横を、後ろを都会に住み慣れた人々はまるで集団行動の競技のように巧みにすれ違いすり抜け、そして追い越して行く。  前から来る人々の多くはすれ違いざまに、美しい七海の姿を二度見した。白地に赤い薔薇模様のワンピースを着たすらりとした長い髪の七海の姿は、暗い色合いの人ごみの中で一人際立(きわだ)っていた。  七海は乗り慣れない電車を大した計画も無く、人の多い方へ多い方へとただ乗り継いでこのコンコースに辿り着いのだ。歩き疲れて巨大な駅構内の中で出来るだけ静かなカフェを七海は探した。しかし都会の駅構内に静かなカフェを探すのは難しい。  七海はいくつかのカフェを物色すると、壁に茶色いレンガをはめ込んだカフェ、というより昭和の渋い喫茶のような店を見つけた。"カトレア"というレトロな看板が出ている。
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