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一方、由希と美都香は黙っていた。由希も美都香も驚き、戸惑い、困っているような顔で立ち尽くしていた。
龍之介はふと時計を見て、「ごめんね、来客があるんだ。先に帰っているよ」と言って家の方へ歩いていった。
残された2人は、しばらく何も言わずに立っていた。
その沈黙を由希は破ってこう言った。
「美都香、もう会うのをやめよう」
「…え……?」
美都香は何も考えられなかった。愛しい人と会うのをやめるなんて考えたくないと美都香は思った。
「君は俺を救ってくれている龍之介様の婚約者だ。俺は龍之介を裏切るようなことできない。…したくない」
「…っでも!私はあなたが」
「言うな!!!」
反論しようとする美都香の言葉を、由希は大きな声で遮った。
「言わないで……。言ってしまったら俺はもうどうしたらいいのか分からなくなる。俺は君を諦められない。けど、諦めなくてはならないんだよ。君が何を言おうとしていたのかは分かっている。俺もそうだよ。でも、駄目なんだよ。出逢ってはいけなかったんだよ。駄目なんだよ。この恋は」
美都香は大きな涙の粒を、目からぽろぽろこぼしていた。しゃくりあげ、泣いていた。2人の横に立つ木は、真っ赤に染まった紅葉をさらさらと落としている。もうほんの数枚しか紅葉は木についていない。
「…ごめんね、美都香。俺は君を幸せに出来ない、その分龍之介様に幸せにしてもらってくれ」
そう言うと、由希は立ち去って行った。
由希が見えなくなると、美都香は大声で泣きだした。それと共に、風もビュービューと泣きだした。
風が木についていた最後の1枚の紅葉を取った。
「待って、まだ散らないで!!!まだ……っ!」
「まだこの恋を終わらせないで!!!!」
この恋は、紅葉と一緒に、風に乗って消えていった。
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