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演奏会
ーー夏美はいきなり大舞台に立った。
ウワァーーっと大きな歓声に、手を振る大勢の人たち。沿道も交差点も人混みであふれた。
夏美は一段高いところに立ち、大勢の視線は一点に向けられていた。
キャー夏美さーん!
弾いて弾いてーー!
演奏始まるよ!
静まることを知らない野外の演奏会。屋外は初めての夏美は大舞台に緊張が走る。
「お待たせしました。我が国を代表するバイオリニスト四条夏美さんによります〝G線上のアリア〟心ゆくまでどうぞご堪能ください!」
静かにバイオリンの音色を響かせる。
辺りは一瞬で静まるとその音色は風に乗り
遠くで鑑賞している者たちにも充分届いた。
夜空の星がバイオリンの音色に合わせて
その輝きは一層つよくなる。
スーーッと引くひとすじの流れ星。
優しく溶けるG線上のアリア。
聴く者の心に幸福を届けた。
わあぁぁぁーー!
「有難うございました! 四条夏美さんの素晴らしい演奏に大きな拍手を!」
こうして、初めてとは思えない夏美の演奏会は何万人ともいえる観客を従え、冷めやらぬ興奮で街は人混みでごった返し、人々は夜が明けるまでその余韻に浸っていた。
沿道や車道に広がった観客は、舞台上の夏美の残像に手を振っている。どこかその盛り上がりようは異常にも見えた。……たかが演奏会。
すると人混みの中に白くて丸いものが1つ。その白いものはまたすぐにどこかに消えた。
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