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眠気に任せて静かに目をつむった。
ーーまた演奏会場だ。
意識してたからか、夢の中で一段高いところから〝演奏会はやりたくない〟と必死に訴えている自分がいた。
下方から〝聴かせてーー〟の声がこだまする。
ーー私は逃げた。必死に逃げた。
夢の中でおかしいおかしいと呟きながら早く夢から醒めなければいけない! と寝ている自分に盛んに呼びかけ走っている。
でも夢の中では急ごうと必死に足を前にやっても、砂の上を裸足で歩くように、足が砂にもぐって沈むように前に進んでいかない。
みんなが呼ぶ。演奏してくれと呼んで追いかけてくる。私は人混みをかき分け1人になりたくて、必死に逃げる。
ーーワン! ワワン! その声で目が覚めた。
パッと見開いた目は何かを睨むように、口は真一文字に。
寝起きがこんなに重苦しいことは初めてだ。
ーーどうしたんだろう。
怖い夢が続くと思ったらいつからか楽しい夢ばかり続く。同じ場所、同じ場面に遭遇する。
ーー疲れた。
たっぷり6時間は寝てるというのに体が疲れている。夢の中で必死に逃げた体力の消耗が、起きた後の自分に降りかかってるようだ。
この間のケイくんの言葉を思い出す。
〝何かあったら連絡してな〟
ーーラインで伝えとこうか。
でも、そこまででもないか。
顔を洗って着替えると、気晴らしにチロの散歩に出た。
「ごめんね、今日はいつもより少し早いね」
チロは短くて細いシッポをフリフリしていつものコースを我が物顔で歩いて行く。
代わり映えのない日常、すれ違う人々、通り過ぎるクルマ、目を開ければこんな穏やかな空なのに、なぜ。
一旦寝てしまうと急に世界が変わるのだろう。
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