アカハル

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鳥居の下で待っているとメッセージが来たのに、ショウコの姿が全く見当たらなかった。柄の入った赤い浴衣を着た綺麗な子がいるくらいで、ほかに待ち合わせをしている女子はいない。 アプリを開いて確認すると、ショウコからのメッセージには確かに『鳥居の下で待ってるよ』と書いてある。いつもなら顔文字がついている語尾の所には、赤色のハートマークがついていた。 トイレかな、なんて考えながら鳥居に背中をもたれる。暇つぶしにとゲームを起動すると、目の前に人が立つ気配がしてスマホから目を離す。 目の前には赤い浴衣の子が立っていた。 怒っているのか口を尖らせて、僕のことをにらんでいるように見える。 「その反応、ちょっと傷つくなー」 「えっ…その声、お前ショウコなのか!?」 「信じらんない、気がつかなかったの?」 「ウケるー」と言いながら、柄の入った赤い浴衣を着たショウコは腹を抱えて笑っていた。 確かに、彼女の顔だけを集中して見てみれば、もしかしたら気がついたのかもしれない。けど普段着と今の格好では雰囲気が違いすぎるし、いつもならそのまま伸ばしている髪の毛も後ろでまとめてある上に、化粧をしているようにも見える。 ショウコは満足そうな笑顔をしたまま、その場でクルリと回ってみせる。袖をつまんで、しっかりポーズまでとっていた。 「ちょっとー? 何も感想ないんですかぁ」 「ごっ、ごめん!えっと、その。なんて言ったらいいか。普段のショウコっぽくない、みたいな…うわっ!? 鼻血出たっ」 「ちょっともう、何やってんの」 ショウコはカゴみたいな形の手さげからポケットティッシュを取り出すと、何枚かまとめて引っぱり出して、僕の鼻に押し当てようと手を伸ばす。 とっさに、僕はその腕を掴んだ。 自分自身の行動であるはずなのに、何故そんなことをしたのか説明できそうにない。鼻血が唇をつたってアゴの辺りまでたれてきている。何も知らない人が見たら、二人が喧嘩をしているようにも見えているかもしれない。 ショウコが困った顔をしている。困らせるつもりなんてなかったし、困らせたいと考えた事もなかった。何か言わなきゃ、早く謝らなきゃ。 「結婚しよう」 ――あれ? グイと僕の鼻に丸めたティッシュをねじこみながら、彼女は「バーカ、私たちまだ中学生じゃん」と言って笑っていた。 「あっちに水道があったはずだから、早く洗ってお祭りいこうよ。お腹ペコペコになっちゃった」 そう言って、僕の腕を引くショウコの頬は赤かった。
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