きれいな泉

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あー、ヤバい。間に合わん。 部活は4時半に始まるというのに開始5分前になってロッカーに靴下だけを置いてきてしまった。いや、置いてきたんじゃない。あいつが勝手に袋から転がったのだ。 外から学校に入るまで20秒。靴を脱いで10秒。いや、靴紐をほどくから20秒か? 内藤は走りながらどのくらい部活に遅れてしまうのかを計算していた。 内藤は長距離選手であるが、校舎という障害物のせいで、速く走ってもあまり意味がなかった。 正面玄関に一番近い階段を一段飛ばしで掛け上がる。校舎は程よくひんやりとしていて、放課後の独特の静けさが漂っている。その空間を走っていると、まるで自分だけが動いているようだ。 あと一階! 二年生の教室は2階にある。内藤は1組なので階段を登って左奥に行く必要がある。 内藤は最後の1段を軽く飛び越え廊下に足をつく。 ふう。 とりあえず一息つき、早足で教室前のロッカーに向かった。 青春をしている者はいないのかほとんどの教室の電気が消え、うるさい声など1つも聞こえなかった。 内藤は2組を過ぎ、ロッカーの前まできた。 その時ガタッと教室から音が聞こえた。電気は付いていない。 「誰かいんのか?」 教室は5限が終わってから始まる全校清掃が終わると、大体先生が電気を消している。だから電気をつけ直さずに駄弁っている生徒が多い。そういうやつがまだいるのだろうと、聞こえた音を気にもせずに内藤は自分のロッカーの暗証番号を合わせていった。 0..5....2.. 「あっ!」 あ? あってなんだ?遊んでんのか? 内藤は最後の3を合わせてつまみを回す。 ガタッ、ガタッ、ガタッ なにやってんだ。 教室内から聞こえてくる一定間隔でなる椅子か机かが鳴る音。 あいつらまたなんか遊んでんのかと、よくつるむ帰宅部の友人を思い浮かべる。 「おーい、なにやってんだよ」 内藤はロッカーから靴下を取り、少し乱暴にがしゃっと閉め、教室の扉を開けた。 暗い。秋のまだ暑い夕日が教室を照らしているはずだ。いつもなら。 カーテンが閉められているらしい。それは分かる。 あれはなんだ。
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