烏はいつも見ていた

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――カティ、行っては駄目だ!  まだ青年というより少年のように若いマチョークが臥せっている私の手を握った。  彼の纏っている服は華麗なのに、小さな私の手を掴む両の手は節くれだっている。  これは、自ら剣を取り馬の手綱を引く手だ。 ――約束しただろう?  問い掛ける潤んだ瞳は悲しみよりも恐怖を示していた。  “カァ、カァ……”  日暮れの窓から(カラス)の鳴く声が遠く響いてくる。  まだ雪融けのしていない城と街を見下ろして鳴いているのだ。 ――陛下、私は……。  唇が勝手に動いて、今の私より遥かに幼い、まだほんの少女の声で語る。  マチョークの涙を湛えた瞳がいっぱいに迫った。 ――先に行って、空からヨーロッパ中のお城が烏の紋章に変わるのを見守っております。  “カァ、カァ……”  黒く沈んでいく意識の中で、飛び去っていく鳥の鳴き声と乾いた羽ばたきの音が尾を引くように響いた。
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