あなたはわたし

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あなたはわたし

 いつも目の前にいるあなた。あなたは誰なの?もしかしてわたし?  わたしの目の前には女の子がいる。まだ5才くらいだろうか。 「こーら!イタズラしちゃ駄目でしょ!」  女の子は女性に抱き抱えられていった。  そうだ、いつもはこの女性が目の前にいる。 「早く支度しないと」  今度は女性が目の前にきた。わたしのことをじっと睨み付けてきて化粧をしている。  わたしの顔はたくさんある。このコロコロ顔の変わる女性。髪の長い黒髪の女の子。くたびれたシャツを着ている男性。この3人の顔にわたしはなれるんだ。ほとんど女性の顔にしかならないけど。  3人が出掛けるとわたしは顔が無くなる。何も映らない。扉を閉められて真っ暗な闇の中でただ待つだけ。扉が開かれなければ顔無しなんだ。 「ただいま!」  また女の子の顔になった。顔だけじゃない。新しい洋服に替わっている。 「新しいお洋服気に入った?」 「うん!ありがと!パパ、ママ」  女の子顔が笑っている。だからわたしの顔も笑っている。  10年も経つと少し顔が薄汚れて見える。 「ねえお母さん、これ汚い」 「じゃあ拭けばいいでしょ。はいタオル」  目の前に来た女の子。あ、なに、顔を拭かれる。ちょっとくすぐったいんだけど気持ちいい。あら?視界が綺麗になったみたい。 「これでちゃんと書けるぞー」  女の子は成長した。わたしの顔と同じくらいに。眉を書いて口紅を塗って、まるで10年前の女性のよう。その女性もまた化粧をするけど、前よりも濃く化粧をするようになった。男性は変わらず、ボサボサな頭を櫛で解かす為に現れる。  更に時は流れて10年後。ちゃんと拭いているから綺麗なままなの。 「ほら見て」 「あら、綺麗になったじゃない」    わたしの二つの顔。女の子と女性。もう二人とも立派な女性だわ。女の子だった女性はとても綺麗に化粧をして見違えた。年を取った女性も大人のメイクをして華やか。 「ちゃんと毎日綺麗に拭くのよ」 「わかってるよ」  それから、わたしはどこかに運ばれていった。着いた所は荷物がたくさん置かれている部屋だった。 「ほらこれ、古いけど立派な鏡台もらったの」 「へえ~高そうだな」  見たことのない男性の顔。わたしの顔が増えたわ。ワイルドな体育会系の顔。  大人の女性と男性の顔になれなくなってしまったけど、元女の子とワイルド男性の顔になれるようになった。毎日二人の顔になる。化粧をしたりワックスをつけたり。  3年の月日が経つと新しい顔が。 「きゃっきゃっ」  見たことのない丸い顔。性別もわからない。赤ん坊の顔がある。わたしは赤ん坊にもなれたのか。  月日はどんどん過ぎていく。また曇ってきた顔。また拭かないといけないのに。誰か。 「あれえー?これきたなーい」 「あ、忘れてたー。お手伝いできる?」 「うん!」  扉を開けると顔が見えた。5才くらいの女の子。あら?この顔は随分前にもなったことがあるわ。 タオルで綺麗に拭いてくれてありがとう。 「ちゃんと拭けた?拭き残しない?」 「ない!見て!」 「ああーホントだ、綺麗になったね!」 「まあまあ、本当、まだ綺麗に残ってるのね」  わたしの目の前には5才の女の子、30代くらいの女性、50過ぎの女性。顔はこんなにも変わっていくんだ。  月日が流れる度にわたしはいろんな顔になれる。次はどんな顔になれるんだろう。  また扉を閉められて暗闇でそっと眠る。いつかまた扉を開けて、わたしの顔を見てね。笑顔だって怒った顔だって、悲しい顔も嬉しい顔も、おかしな顔も泣き顔だって、全部、わたしの顔だから。いつでもわたしの顔を見てね。待ってるよ。 END    
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