1.エリキシル・ヴェジェタル

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「オッケー、わかった! テンさん、ありがとう! 愛してる!」  リーダーのお許しに、それまでクールだったダッシュの表情が一気に明転する。自分でも無茶なことを言っているという自覚があったのだろう。その頬は喜びに紅潮するほどだ。 「……っていうか、当のハルちゃんが完全に蚊帳の外ですけど。さっきから吐きそうな顔してるだけで、シャウトを練習するとは一言も言ってないよ?」   ボンの指摘で全員の注目を浴びたハルは、少し挙動不審になりながらも不安を振り切るようにしっかりと頷いた。 「……うん、やる。頑張る!」 「だとよ。決まりだな」  ダッシュが満足げにニヤリと笑うと、ボンは相反する表情で眉根を寄せた。 「ちょっと待ってよ。みんなボーカルのことばかり心配してますけど、ハルちゃんのギターと俺のベースもヘロヘロですからね? そっちはどうするつもり?」 「それこそ寝る間も惜しんで、血が滲むまで練習しやがれ。『自信とは労力に根差したものでなくてはならない』って、ダフも言ってるだろ」  ガンズ・アンド・ローゼズのベーシストであるダフ・マッケイガンのことだろう。ハルから借りて読んだ彼の自伝にそんな一節があったと記憶している。  ボンは遠慮なく頬を膨らまして不服そうな反応を見せたが、テンホーに「ボンならできるとわかってるから心配してねぇんだよ」とフォローされた途端、たちまちご機嫌になってしまうあたりは可愛いとしか言いようがない。斜に見ているようなところもあるが、実は素直な少年のようだ。 「じゃあ、『Sweet Little Sister』と『18 And Life』、予備に『I Remember You』ということで。主催者側にもそう報告しておくから」  テンホーがそうまとめると、折り良く注文した料理が運ばれてきた。 「うっし! 喰う前にイベントの成功を祈って乾杯すっぞ! カンパーイ!」 「ちょっ……早い早い!」  ダッシュの見切り発車なご発声のせいで、てんでバラバラな乾杯になってしまう。明るく笑い合う四人につられて、コウもいつの間にか笑顔になっていた。 お互いを信頼しているからこそ、本音で語り合えるし、ぶつかりあえる。そんなステキな仲間を持つハルをコウは心の底から羨ましく思った。
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