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コウはペデストリアンデッキの上から忙しなく往来する車の流れをぼんやりと見下ろしていた。
恋人と友人に裏切られたことも知らずにのこのこやってきて、自分は一体何をしているのだろう? まさに愚の骨頂だ。新しい年に向けて皆が希望に胸を膨らませる中、一人ぼっちで絶望のどん底にいる。その事実が途方もなく辛く、涙すら出てこない。ハルのようにステキな男の子から愛してもらい、やっと自分のような人間にも価値があるのだと感じられるようになったところだったのに──。
マユミはこの自己評価の低さに目をつけたのだった。自信がないコウは、どんな人に対しても遠慮してしまう。それがマユミのように外見も内面も自信に満ちた女性ならば尚更だ。
たとえ卑怯なやり方でも声高に強く押し切れば、怯んだコウはそれきり口をつぐみ、言い返してくるようなことはない。あまつさえ、マユミではなく自分に非があるのだと思い込み、消えるように退く道を選ぶだろう、と。
加えて仙台在住でないこともマユミにとっては好都合だった。
コウは自分に自信が持てないことは認識していたが、何事にも無意識に退いてしまう癖までは、完全に自覚していなかったのである。
先程ラテで温まったはずの身体がみるみるうちに熱を失っていく。デッキのポールに触れると、手が凍ってしまうのではないかと思うほど冷たい。
ここから大通りへ飛び降りたらどうなるのだろう? 一瞬で死んで、自分の身体もこんなふうに冷たくなることができるのだろうか? そんなことをぼんやりと考えていると、ふいに声をかけられた。
「ねーねー、そんなトコでなにしてんの?」
微動だにしないコウの視界へ割り込むように若い男性が両側から顔を覗き込んでくる。一人は金髪で、もう一人は黒髪の短髪だ。年の頃は二十代半ばだろうか?
「こんなトコにずっと立ってたら風邪ひくよ? 俺たちと何かあったか~いものでも飲まない? それか、飲むのはナシで俺たちが温めてあげてもいいけどぉ」
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