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会えなかったのはたったの五日間だ。もっと長く会わなかったこともあるのに、浅い夢の中で何度も抱きしめ、その度に掻き消えていた彼女がしっかりと腕の中に存在している現状が信じられない。
「……無理。殴れないよ……」
コウのふり絞るような声が涙に震えている。その繊細な揺らぎが胸に伝わり、形容しがたい痛みと切なさにハルの双眸からぽろぽろと涙があふれた。
「コウさん……」
高まった感情そのままにぎゅっと抱きしめると、密着した身体を通して様々な感情が二人の間を去来する。これまでの孤独感と罪悪感、悲しみ、後悔、自己嫌悪。そして、安堵感、照れくささ、思いやり、許し、嬉しさと愛しさ。
ハルはこの公園での待ち合わせが決まってから、自分の気持ちを的確に表現する言葉を懸命に探し求めていた。しかし、この抱擁にはどんな名言も箴言も敵わない。ただこうして触れ合うだけで伝わるものが確かにある。言葉よりもずっと雄弁に、余すところなく。その未知なる感覚が全身を駆け巡り、ハルは喜びに打ち震えた。
「ヤバい、本当に失神しそう……」
驚いたコウが身体を離し、間近にハルを見つめる。泣きぬれたひどい顔に笑い合うと、互いの白い息が交わり、冬の夜に微かな温もりを放った。
「なんだよ、殴らねぇのかよ。つまんねぇなぁ」
二人だけの世界に入っているハルとコウを目の前にしてリュウがボヤく。
「そんなことしないって、初めからわかってたくせに」
本当は嬉しいだろうに、まったく素直じゃない。そう苦笑してイズが核心をつく。
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