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 BLACK BOXでのライブから五日後、コウがハルと初めて過ごすクリスマスがやってきた。  いつものお泊りセットが入ったバッグの中には、エリキシル・ヴェジェタルについてのネット記事などをまとめた小冊子が入っている。タウン情報誌やBLACK BOXのホームページ、当日観客としてその場に居合わせた人々がSNSで発信したものだ。もちろんマユミの『Sendai Musik』もある。ほとんどが驚きと感心を持ってハルと新生エリキシルを絶賛しており、コウは嬉しくてしょうがなかった。 中には『やっぱりエゼキエルは別格』とか、『エリキシルは上手かったけど、エゼキエルの前では霞む』という辛辣な感想も散見されたが、向こうはメジャーデビューが噂されるほどなのだから、取り上げ方に差があるのは致し方ない。コウはそのことを悔しく思いながらも、エリキシルだっていつかは……と珍しくポジティブに受け止めていた。さまざまな記事を見るたびに一喜一憂していた彼女を奮い立たせたのは、リュウがどの媒体からの取材でもハルのことを上手いと褒めていたからである。  ハルはこの記事を見ただろうか? 嬉しさのあまりすぐにLINEしたのだが、既読がついてから『ありがとう』というスタンプが送られてくるまでに七分も要した。これだけでは記事を読んだのかわからないし、それについてどう思ったのかもまったく言及していない。  喜んだハルから大興奮の返事が来ることを予想していたコウは、その薄すぎる反応に拍子抜けしてしまった。あれだけリュウに憧れていたのに、一体どうしたのだろう? 何か気に障る書き方をしただろうかと読み返してみたが、特段思い当るようなところはない。  しかしながら、コウは幼い頃の苦い思い出のせいで、自分が『普通ではない』という不安がある。すぐマユミに相談してみると、彼女からの回答は至極冷静なものだった。 『今回のライブのためにメチャクチャ頑張ったって言ってたから、ちょっとだけ燃え尽き症候群みたいになっているんじゃない? 少し休めば元気になるよ♪』  なるほど、と素直に思えた。イベントライブという大きな目標を掲げてひたすら頑張っていたのだから、当然といえば当然かもしれない。
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